2015年01月20日

三谷幸喜版『オリエント急行の殺人』をたのしむ

録画しておいた三谷幸喜氏による『オリエント急行殺人事件』をみる。
ふたばんにわけて放送されたもので、
第1部は原作を忠実に映像化したもの、
第2部は過去にさかのぼり、第1部にいたる乗客たちのおもいがえがかれている。
こうやって、犯行にいたる経緯をしめされると、
たしかに原作では、米富豪にかかわりのあるひとたちによる、
復讐をくわだてる具体的なうごきが
はぶかれていたことに気づく。
誘拐事件からはじめると、膨大な量の作品になってしまうので、
犯行に焦点をあてた『オリエント急行の殺人』は
ミステリーとして当然の構成といえる。
ごくふつうのミステリーのなかに、
そこにいたる過去のものがたりをおもいついたことで
三谷氏の『オリエント急行殺人事件』はうごきだした。
原作を映像化するだけなら三谷氏はあまりうでのふるいようがない。
これまでになんども映画化された作品を
日本でドラマにしても いまさらなにをあらわすというのか。
しかし、犯行まで過去をどう料理するかなら、
三谷氏は自由にふでをすすめられる。
今回の2部構成は、三谷氏からみれば 必然であり、
第2部こそが三谷氏があそびまわれる舞台となる。

(以下ネタバレ)
すべての作品にリアリティがもとめられるように、
『オリエント急行殺人事件』も、誘拐事件の関係者が
どれだけ犯行への動機を切実にもったかをおさえてほしい。
その点では、慈善団体の事務局をしていた幕内氏が、
なくなった夫人にいかにお世話になったからといって、
ひとりで復讐をこころざすほどの動機をもつとはかんがえにくい。
おなじように、執事の増田氏が
(旦那さまは)「使用人おもいのじつにやさしいお方でした」というのや、
運転手だった保土田氏による
「わたしたちを家族同然にあつかってくださいました」
も無理がある。
無理ではない、というには、そこでまた膨大なサイドストーリーが必要だろう。
藤堂氏のうごきがなかなかつかめず、
作戦をたてられなかったのも、
「用心ぶかい男だから、生活のペースをかえようとしないのよ」
もおかしい。
おなじペースでくらしてくれたほうが、策をねりやすいのではないか。

三谷氏らしいあそびもある。
犯行にいたるまでに、「わたしもいれてください」と
だんだん仲間がふえていくようすは まるで「桃太郎」だし、
ヒゲをそって変装したはずの能登大佐なのに、
つぎのシーンではまたヒゲがはえていたり。
寝台列車のなかで「実行」をまつあいだ、
関係者たちの気もちがだんだんもりあがり、
ドタバタになったのもおかしかった。
あんなにおおぜいが通路をうろうろしたら、
だれかにみられやしないかと心配になる。
乗客がどんな関係にあるのかをしりながら第2部をみるのは、
三谷作品に特有のおかしさだ。

12人がひとりずつ、「ひとさし」する場面はかなりグロだ。
二宮和也氏がうまかった。
「奥さまのかたき」とつぶやき、犯人の顔をみながら
冷静にプスッとつきさす。
長年の計画を実行にうつすときはあんなかんじかも、
とおもわせるリアリティがあった。

はじめは名探偵勝呂尊(野村萬斎氏)の、
芝居がかったそぶりと奇妙な声に違和感があったけれど、
そのうちなれて作品をたのしめた。
とくに第2部は、過去のものがたりをおもいついた三谷氏のアイデアに拍手をおくりたい。
すべてのものがたりには、
その以前があり、それ以後があることを気づかせてくれた。

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posted by カルピス at 11:25 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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