2015年06月27日

『スポーツを10倍楽しむ統計学』(鳥越規央) なでしこが優勝する確率は?

『スポーツを10倍楽しむ統計学』(鳥越規央・化学同人)

スポーツでは、それぞれの競技において さまざまなデーターがあつまってくる。
そして、その数字をどう解析するかには、統計学の知識が必要となる。
しかし、いくら統計学的にスポーツを解析されても
複雑な式や数字がならんでいては、わたしには理解できない。
そこをわかりやすくあらわしてくれたところに 本書のありがたさがある。
テニス・卓球など8つの章と9つのコラムからなり、
それぞれに「テニスでは、なぜ決勝に進む選手は同じなのか」など
興味ぶかい問題提議にそってデーターを解析し、数字から戦略をねっていく。

サッカーの章では、先制点がいかに大切かをしめす「7・2・1」の法則が紹介されている。
先取点をとったチームの7割がかち、2割がひきわけ、
まけるのは1割にすぎないというのだから、
たしかに先取点がもつ意味はおおきい。
よく、点をとられてもあわてずに 90分でかてばいい、
みたいなことが いわれているけれど、
この法則からは、先取点をとられないような試合はこびこそを
まずこころがけなければならないのがわかる。
サッカーは、得点のほうに目がむきやすいが、
失点しないことが大切ともいえるスポーツなのだ。

得点がうまれやすい時間帯はあるだろうか。
サッカーではよく「たちあがりが大切」といわれている。
本書では、得点が生まれた時間帯をグラフであらわしており、
これによると、試合終了間際である後半の30分以降がおおく、
また、前・後半とも、15〜20分に得点が生まれやすい。
このデーターからは、たちあがりの重要性がみえてこないけど、
先取点にしぼって時間帯をみると、
前半の3〜8分というたちあがりに、おおくの得点が生まれている。
この時間帯に得点できれば、7・2・1の法則より、勝利の確率が高い状態を早い段階で得ることができ、その後の試合運びにもよい影響を与える。逆にいえば、この時間帯の失点は、「自分たちのサッカー」をするチャンスを失わせ、苦しい試合展開を余儀なくされることにつながる

日本の男子代表が、先日のシンガポール戦のようにかちきれないときは、
たいていがきめておかなければならない時間帯に得点できなかったときだ。
いっぽう、いまおこなわれている女子Wカップでの「なでしこ」たちは、
スイス戦(前半28分)をのぞく、グループリーグのカメルーン戦・エクアドル戦、
そして決勝トーナメントのオランダ戦と、
いずれもたちあがりに得点できた。
どの試合も1点差というくるしい展開ながらも 結果をのこせているのは
「7・2・1の法則」をいかす、いい時間帯での先取点がきいている。

さて、女子Wカップの決勝トーナメントがおこなわれているいま、
もっともしりたいのは、統計学的になでしこがどう分析されるかだ。
前回のワールドカップ後に行なわれた参加24カ国間の国際Aマッチの対戦成績を収集し、それらの得失点をすべて集計した。そのデータを統計学で「ブラッドリー・テリーモデル」という統計手法に基いて、各国の強さの推定を行った。(中略)
分析の結果、アメリカ、フランス、ドイツといったFIFAランクトップ3が順当に上位と分析された。
この分析によると、日本はFIFAランクとおなじ4位の実力と判断されているそうだ。
1位のアメリカが優勝する確率は14.1%なのに対し、
4位の日本は6.8%でしかない。
しかし 幸運なことに、決勝トーナメントで日本はめぐまれたくみあわせを手にした。
アメリカ・ドイツ・フランスといった上位の国と、
日本は決勝まで顔をあわせずにすむ。
きのうの試合で、ドイツがPK戦のすえフランスをやぶっており、
いま「統計学的に」日本より上位のチームはアメリカとドイツだけとなった。
そのうちのどちらかしか決勝にはすすめない。

個人的なこのみでいうと、
わたしは数字よりもながれにおもきをおくほうで、
統計学的なデーターの解析はいまひとつ腹におさまらない。
数字上ではありえないことがおこるから スポーツはおもしろいのだ。
そんななかで、本書のよみやすさがひかるのは、
統計学をもちいることで競技の特性をあきらかにしつつ、
そこから将来を予想していく姿勢にある。
たとえばテニスでは、
この章では、テニスという競技のルール上の特性を統計学的に分析し、いかに下克上が大変であるかを紹介し、そのうえで錦織が上位に進出した秘訣を探ってみる。さらに将来、錦織が4大大会で優勝できる確率の算出にも言及する。

こうした興味ぶかい問題の設定が各章でされており、
関心のないスポーツでも、よみものとしてたのしめる。
なでしこが優勝する確率は、あまりたかくないけれど、
それはまたべつのはなしだ。
あすのオーストラリア戦がまちどおしい。

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posted by カルピス at 12:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | スポーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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