地方都市にあるラブホテル「ホテルローヤル」を舞台にした連作短編集。
7つの短編からなり、「ホテルローヤル」をつくるときのはなしや、
経営がゆきづまったころや、廃業し、くちおちていくホテルなど、
いろんな状況の「ホテルローヤル」が断片的にえがかれる。
一冊をとおしてよみおえると、
「ホテルローヤル」がみぢかな存在になっており、
ぜひいちど、みたいな気がしてくる。
ラブホテルだけに話題はたくさんある。
えらんだ素材がよかったし、その材料をいかすうでもたしかなので、
おもいがけずたのしい読書となる。
桜木紫乃氏の作品をよむのはこれがはじめてで、
描写のうまさやわらいのセンスをたのしめた。
「ホテルローヤル」には、さまざまなひとがからんでくる。
お客さんだけでなく、経営者・そのむすめ・
廃虚となったホテルローヤルをたずねてきたカップル・
ホテルではたらく女性など、
かかわるひとによって「ホテルローヤル」はさまざまな意味をもつ。
いちばん気にいったのが、「せんせぃ」。
両親がふたりとも家をでていった女子高生と、
妻がながねん浮気をしていたのに気づいた教師のはなしだ。
かえる家もなくなったから、キャバクラにでもつとめるかな、
というおしえ子に、教師は
「お前にキャバクラは無理だと思う」という。
キャバクラで成功するのは
「ひたむきでしたたかで、人を騙すことに立派な理由をつけられる女」
だとおもうからだ。
この条件は、じつはそのまま教師の妻をあらわしていた。
妻は、20年というながいあいだ、
高校のときの担任との関係をつづけており、
それが教師にとって仲人までしてくれた恩師だというからひどい。
もうわかれる、と妻はいったけど、
とうぜんのことながらまだきれてはいない。
教師が単身赴任さきからもどったときに、
自分のマンションのまえで、
妻と浮気相手である恩師が家にあがるのを目撃する。
「せんせぃ」と舌たらずなはなしかたをするおしえ子に
「せんせぃ、かわいそう」といわれ、
「そうか、俺、かわいそうなのか」と教師は自分の状況をやっとのみこむ。
”長く浮遊していた心の、着地点が見えた。すっと右足が前にでる。”
がうまい。
「せんせぃ」とはべつのはなしで
「ホテルローヤル」を廃業においやったのは、
高校教師とおしえ子との心中がきっかけだった、とある。
きっとその心中は、「せんせぃ」にでてきたふたりだ。
ふたりは愛しあっていたのではない。
教師はだらしないおしえ子を冷静につきはなしており、
教師として最低限のかかわりしかもたなかったのに、
それがどうからまって心中までいったのか。
ぜひ「せんせぃ」のその後をよみたいのに、
ふたりが釧路ゆきの電車にのったところではなしはおわり、
読者の気をひいたまま、おもわせぶりなところでとめてある。
さいごの短編「ギフト」は、
「ホテルローヤル」をはじめるときのはなしだ。
おおくの借金をかかえ、妻にはにげられ、
「社長」はどんなおもいでホテルをはじめようとしたのか。
どんなものにも ものがたりがある。
たとえラブホテルであっても、というよりは
ラブホテルだからこそ ごまかしのきかないリアルさをひめる。
そうやってはじめた「ホテルローヤル」が、
さいごには廃虚にまで姿をかえてしまった。
「兵どもが夢の跡」なんてことばがつい頭にうかんでくる。
7つの短編をよみおえたあとも、
もうしばらく「ホテルローヤル」にまつわるはなしをよんでいたくなる。
チープなトホホ感がわたしにはいごこちがよかった。
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