ネットに公開されたとき、気になる相談・回答は、
エバーノートにクリップしてある。
紙の本のできぐあいをみてみるか、という
余裕のたちよみだ。
でも、というか、さすがというか、
よみだすと どれもおもしろい。
ごくはじめのほうのページに
「文章を書くのが苦手です」という相談があり、
それにたいして村上さんは
文章をかくのは、女のひとを口説くのと一緒で、ある程度は練習でうまくなれるけど、基本的にはもって生まれたものできまります。と身もフタもないこたえをしている。
家にもどってエバーノートを確認したら、
この相談はとりこんでなかった。
ネットでみたときには、
さほどたいした内容ではないと
無垢なわたしはスルーしたようだ。
文章は練習であるていどうまくなるだろう。
そして、そのさきがセンスの問題になるのは、
いわれなくてもわかる。
しかし、よくかんがえてみたら、
たいていのことが
「ある程度は練習でうまくなれるけど、
基本的にはもって生まれたものできま」るのではないか。
そこにあえて口説くテクニックをたとえにもってきたのが
村上さんのうまさだ。
べつのひとが、
「(自分は女なので)女の人を口説いたことがありません」とかいてくると、
男になって、自分が女性を口説いているところを想像してみてください。あなたは女性だから、男の人にどんな風に口説かれたら「落ちちゃう」か、だいたいわかりますよね。そういうところを想像するんです。英語で言うseduceです。誘惑して、こっちに引っ張り込んで、ものにする。たらしこむ。基本的にはそういう具合に文章をかけばいいんです。というのだから、説得力がある。
とはいえ、
「誘惑して、こっちに引っ張り込んで、ものにする。たらしこむ。
基本的にはそういう具合に文章をかけばいいんです」
といわれても、口説きにおいて低レベルのわたしには
なんのことかピンとこない。
「こっちに引っ張り込」むのが大切なのは わかるような気がする。
しかし「たらしこむ」となると
わたしのとぼしい経験ではどうにもならない。
文章と口説くのがおなじなのだから、
女のひとを口説くのも
「ある程度は練習でうまくなるけど、
基本的にはもって生まれたものできまる」
ことになる。
「ある程度」のテクニックにひっかかってくれるひとは、
どの程度の女性なのか。
わたしはちゃんと女性を口説いたことがあるのか。
それは、練習によってだんだんうまくなったテクニックなのか。
もって生まれた限界をかんじたことがあったか。
どのといかけも、いまのわたしにはカスミがかっていて
うまくこたえられない。
なんとなく総括してみると、
どうも文章ほどに口説くテクニックを
わたしは意識したことがなく、
そのため村上さんのたとえをよく理解できない。
わたしには、さきをよみすぎて めんどくさくなるところがある。
その結果「ま、いいか」と、口説くまえに
あきらめてばかりの人生だったのではないか。
口説きと文章を「一緒」だというのだから、
村上さんはさぞかしたかいレベルの「たらしこみ」を
会得されてるのだろう。
著書をよむと、
たとえば『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』では、
図書館のカウンターで
もちだし禁止の本をかりさせて、なんて
むちゃなおねがいをする。
ためらう女性に「私」はつよくたたみかけて、
けっきょく自分ののぞみをとおし、
お礼にサーティーワンアイスクリームをプレゼントする。
すこしあとで、さらには一角獣についてしらべてほしいと電話でもとめ、
その本を家までもってきてくれと無理をいう。
それがぜんぶとおってしまうのだから、
口説きの上級者はさすがにちがう。
「ま、いいか」なんてあきらめていないで
なんでもやってみるものだ。
もっとも、わたしが図書館につとめる女性に、
もちだし禁止の本を
「たった一日だけだよ。そんなのわかりゃしないさ」
なんていったところで、つめたくあしらわれるにきまっている。
わたしは、いつまでたっても
うまくたらしこめるような気がしない。
もって生まれたなにかに 問題があるみたいだ。
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