お昼ごはんの時間になったので、
ピピをそっともちあげて、イスのうえにおろす。
わたしのズボンにしみができている。
爆睡していたピピが、よだれをこぼしていた。
ちなみによだれのことを出雲弁で「ごぼず」という。
ディープな地域では、これがさらに「ごぼぢ」となる。
ピピのはよだれというよりも、
この「ごぼぢ」がしっくりくるけれど、
なんのことかわからなくなるので、
ここでは「よだれ」としてはなしをすすめる。
ズボンがぬれたので、そこだけひんやりとつめたい。
ピピは口内炎をわずらっているため口臭がきつく、
したがってよだれもかなりつよいにおいがする。
でも、わたしはわるい気がしなかった。
こんなシミをつけてくれるピピをいとおしくおもい、
さらにいえばしあわせをかんじた。
家でかわれるネコのかずが、
もうすぐ犬をぬいて多数派になりそうだと、
すこしまえの新聞にかいてあった。
かいぬしの高齢化から、散歩やしつけの手間がかからない
ネコをえらぶひとがふえているらしい。
けれど、たくさんのネコずきがいるなかで、
どれだけのひとがネコによだれをつけてもらえるだろう
(ピピが病気なだけだけど)。
ピピはそれほど安心しきってわたしのひざのうえでまるくなり、
おおきなシミができるほど ふかいねむりをむさぼった。
昼ごはんをたべてるあいだじゅう
ズボンからたちのぼってくる よだれのにおいをかいでいると、
胸があたたかくなってきた。
どんなときにしあわせをかんじたかは、
あんがいこたえにくい。
高価なものが必要なわけではなく、
全体の雰囲気がカギになりそうだ。
ちいさなころ、お母さんが夕ごはんの声をかけてくれたとき、
なんていうひともいた。
さんまさんの「ポン酢醤油」のように、
ふだんは気づかない ささやかなものがおおいかもしれない。
ピピのよだれは おもいがけずわたしに
しあわせなひとときをもたらしてくれた。
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