2015年11月16日

『ハートブレイク・カフェ』(ビリー=レッツ)

『ハートブレイク・カフェ』(ビリー=レッツ・文春文庫)

なんとかカフェというタイトルをみると、
つい映画『バクダット・カフェ』を連想する。
あたらずといえども とおからず。
でも やっぱりちょっとちがう。
どこがちがうのかをかんがえると、
それがこの作品の特徴になりそうだ。

『バクダット・カフェ』では、
旅行者であるドイツ人女性(ジャスミン)が
カフェではたらきはじめると、
店の雰囲気がガラッとかわってくる。
映画のスタートがはっきりしていて、
いちども過去へもどったりしない。
『ハートブレイク・カフェ』も田舎町にある
さえないカフェが舞台だけど、
『バクダット・カフェ』におけるジャスミンのような
特定のキーパーソンはいない。
店をまかなうメンバーと常連客が、
おたがいをみとめあいながら、
カフェを味のある場所にしている。
善人としてばかりえがいてあるのではない。
ちゃんとよわさや いやな面もかいてありながら、
よみおえたあとのさわやかさが 格別にここちよい。

オーナーのケイニーはベトナム戦争の帰還兵だ。
戦場でうたれて下半身マヒとなり、車イスにすわっている。
カフェをひらいてから12年ものあいだ、
まだいちども店のそとにでたことがない。
店を手つだいながら、
なにかとケイニーの世話をやきたがるモリー・Oは
娘との関係がうまくいかない。
そんなカフェに、ネイティブアメリカンの女性ヴィーナと、
ベトナム人難民のブーイが店にやってきたことから
ものがたりがうごきはじめる。
彼らの過去が すこしずつあきらかにされていくなかで、
それぞれのかかえている課題がからまりあい、
これからどう生きていくのかが姿をみせる。

『ハートブレイク・カフェ』は日本語版のタイトル名であり、
原作名は「ホンク&ホラー近日開店」となっている。
なんのことかというと、
カフェの名前は「ホンク&ホラー」だけど、
オープンするまでの準備期間も宣伝になればと
「近日開店」というフレーズをパネルにいれるよう
ケイニーが注文したのだ。
そのフレーズだけは とりはずしのきく看板のはずだったのに、
ばっちりネオンパネルにまでいれられてしまった。
ネオンになっていまうと、
もうとりけせないし、つくりかえられない。
オープンするまでは つじつまがあっていた「近日開店」も、
いったん店がひらかれると、
それからさき永久に「近日開店」であり
ジョークのネタにしかならない。
お店のトホホなもち味が、
このときすでに約束されてしまった。

すくなくない登場人物の概況をつかむまで、すこし時間がかかる。
主要メンバーの配置があたまにおさまれば、
あとはどっぷりと「ホンク&ホラー近日開店」の世界だ。
いつまでもカフェの仲間たちとすごしていたくなる。
こんな店なら めちゃくちゃいそがしくてもいいから
はたらいてみたい、なんて
なまけもののわたしでさえおもった。
お仕事小説であり、
地域再生ものがたりとしてもよめ、
ベトナム帰還兵ものともいえるし、
家族小説や、恋愛小説でもある。
やたらとふところのひろい本だ。

でてくる犬と馬が、当然のこととして大切にされるのが
よんでいてここちよかった。
人間だけでなく、動物たちも
めでたしめでたしとなるおはなしだ。

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posted by カルピス at 11:13 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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