「作家の読者道」(web本の雑誌)にのった
深緑野分さんのはなしがおもしろかったので、
http://www.webdoku.jp/rensai/sakka/michi169_fukamidori/
はじめての長編という『戦場のコックたち』をよんでみる。
第二次世界大戦のヨーロッパ戦線、
そのなかでも後方支援に目をつけたのはすばらしい。
前線をささえるには、武器や燃料、それに食糧の補給がかかせない。
アメリカ陸軍は、兵士たちの食事をどうやって確保したのか。
前線ではなにをどのようにたべていたのか。
炊事を担当する部隊の仕事ぶりに興味があった。
主人公のコールは、ジョージア州にあるトコア基地で
2年間の訓練をこなしたのち、
ノルマンディー降下作戦の一員として、
フランスのコタンタン半島にパラシュートでおりたつ。
コールは第101空挺師団506パラシュート歩兵連隊に所属し、
料理を担当するだけでなく、通常は兵士としてたたかいに参加するのが
コールたちコックのメンバーの役割だ。
ドイツ軍のはげしい抵抗にくるしみながら、
コールの中隊は しだいにベルリンへと敵をおいこんでいく。
トコア基地での訓練をよみながら、
どこかでよくにたはなしにふれたことをおもいだした。
これは『バンド・オブ・ブラザーズ』だ。
よみすすめるうちに、ノルマンディー上陸作戦に、
マーケット・ガーデン作戦(映画での『遠すぎた橋』)、
アンデンヌの森でのさむくてつらい攻防戦と、
どのページをめくっても、
『バンド・オブ・ブラザーズ』でみた場面が目にうかんでくる。
本のさいごにあげられている主要参考文献では、
『バンド・オブ・ブラザーズ』がいちばんに名をつらねているので、
パクリとはいわないけれど、
オリジナリティとしては いくぶんよわくなる。
『バンド・オブ・ブラザーズ』を参考にした、というよりも
主要なエピソードをなぞった印象をぬぐいがたい。
めずらしいこころみとしては、
戦場を舞台にしながら、章ごとがミステリーじたてになっている。
『ビブリア古書堂の事件手帖』をわたしはおもいだした。
各章で戦場にまつわる不思議なできごとを、
コールと彼のなかまたちが ときあかしていく構成だ。
わたしがたのしみにしていた戦場での炊事は
ほんのすこししかかかれていない。
といって、つまらなかったわけではない。
深緑氏のわかさとエネルギーがうまくいかされて、
読者の興味をひきつけるちからづよさにあふれている。
完成度としては いまひとつかもしれないが、
初期の作品ならではの熱気がほとばしり、好感をおぼえる。
インフルエンザにでもかかって、
じっくりよみすすめたいとおもわせた迫力をたかく評価したい。
いつおわるともしれぬ 前線での日常につかれ、
コールはしだいに精神的な荒廃をかんじるようになる。
たくさんの経験をつみ、「戦争」になれるにつれて
こころをかたくしなければ、生きのこれなかった。
ドイツ軍をおいつめ、作戦のおわりがみえてくると、
戦争はべつのステージをむかえる。
ユダヤ人への対応をはじめとする人種差別や、
アメリカ軍が侵略者となっての、
略奪行為や軍事物資のよこながしなど、
さまざまな廃退が目にはいってくる。
コールはぶじにふるさとの町にもどり、
つい最近まですごした戦場とは
あまりにもちがう景色にいたたまれなくなる。
平和だ。これこそが平和なのだ。僕らはこのために戦った。
それなのに、この虚しさは何だ?
まるで人生のおわりをむかえた老人のように、
からっぽのこころをかかえてとまどうコールは
まだ20歳になったばかりだ。
Dデイから退役にいたるわかい兵士の体験を、
おくゆきのあるものがたりとして
かきあげた作者の力量をたたえたい。
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