犬ぞりレース「ユーコンクエスト」をとりあげた番組で
本多有香さんをしった。
犬ぞりに魅せられて18年まえにカナダへうつりすみ、
マッシャー(犬ぞり師)のもとへ弟子いりして経験をつむ。
番組では「ユーコンクエスト」という
1600キロの犬ぞりレースが中心だったけど、
本多さんがものすごくたのしそうに犬ぞりにかかわっていたので、
もっと本多さんのことがしりたくなり、この本を手にとった。
本書には、犬ぞりをしるために、
カナダとアラスカですごした修業のようすが くわしくかかれている。
マッシャーのもとでおくる きびしい生活をとおして
本多さんはすこしずつちからをつけていく。
いまでこそ、本多さんは森のなかでキャビンにすみ、
まわりには自分の犬たちの家(犬舎)があるけれど、
ここまでくるのは、かんたんな道のりではなかった。
マッシャー(犬ぞり師)に弟子いりし、
犬の世話やレースの手つだいにあけくれる。
修行ちゅうはもちろん給料などもらえない。
へたをすると、ずっと便利なお手つだいのまま、
いいようにつかわれてしまったりする。
そんななかで、本多さんはすこしずつ経験をつみかさね、
やがて ひとの犬をかりてレースに挑戦していく。
それはまた、お金をかえすために、
アルバイトづけの日々になることを意味した。
やっとレースにでられても、予想外の嵐にみまわれたり、
あてにしていたリーダー犬が調子をくずしたりで、
本多さんのレースは なかなか実をむすばない。
2009年のユーコンクエストでは、
リーダーをつとめる犬がいなくて、
本多さんはそりをおり、自分が犬たちの先頭にたって峠をのぼる。
チェックポイントにたどりつくと、
たくさんのひとたちが本多さんのためにないていた。
「有香、あんたは本当にすごいよ。イーグルサミットをリーダーとなって登ったのはあんたが初めてだよ。」(中略)
と鼻をすすりながら私を抱きしめて言うのだ。しかし私は、「それってカッコイイことではないよな。すんなり行けるのが本物だよな」と、自分でわかっていた。
3どめの挑戦で、本多さんはようやくユーコンクエストを完走する。
ゴールには、これまで本多さんをささえてくれた
たくさんの人たちがおいわいにかけつけた。
そして足元の犬たちを見た。氷の斜面で転がり諦めかけた私を、無言で励ましてくれた犬たちだ。
疲れて仕事から帰ってきたとき、私の周りを跳び回り、全身全霊で喜びを表現してくれた犬たち。
暗く寒い厳冬期に、何時間もともに走り続けた犬たち。
嵐に巻き込まれ、遭難しかけた雪山でも私を信じ従ってくれた犬たち。
今まで私に関わってくれた多くの犬たちのおかげで私はゴールすることができた。
この本は、18年にわたって本多さんが
犬ぞりレースにとりくんだ記録であり、
ひとりのわかものが夢をおいかけた青春記だ。
本多さんは2015年の「植村直己冒険賞」を受賞している。
無名なわかものが、ながねんにわたり努力をつみあげ、
とうとう夢を実現させたのだから、
まさに植村さんの名をいだく賞にふさわしい。
本多さんはいつしか ガッツと実力をかねそなえた
ほんものの犬ぞり師へとそだっていた。
そしてもうひとつ。
本書は、本多さんと犬たちとのものがたりだ。
本多さんは、犬たちといっしょにはしるのが
ほんとうにすきでたまらない。
「犬と、走る」というタイトルには、
犬ぞりレースうんぬんではなく、
とにかく犬たちといっしょにはしりたいという
本多さんのねがいがこめられている。
本多さんは自分のチームを「世界一」とほこりにおもい、
自分の犬たちがいとおしくてたまらない。
自分をしんじてくれ、自分のために
きびしいコースをいとわずにはしってくれる犬たち。
彼らとのあいだにきずいてきたふかくてかたい信頼関係を、
本多さんはなによりも大切にしている。
彼らの態度や少しの異変を素早く察知し、私がその問題に対処すれば、彼らはそれに感謝して私のために頑張ってくれるのだ。
レースの成績よりも、自分のねがいよりも、
本多さんはまず犬の体調を優先させる。
犬といっしょにはしれるからこそ、
本多さんは犬ぞりレースに夢中になる。
植村直己さんの『青春を山に賭けて』をよんだときの興奮を、
ひさしぶりにおもいだした。
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