2016年08月14日

『シンドラーのリスト』(トマス=キリーニー)ユダヤ人虐殺から生きのびる唯一のリスト

『シンドラーのリスト』
(トマス=キリーニー・磯野宏:訳・新潮文庫)

強制収容所からおおくのユダヤ人をすくった
シンドラー氏についてのノンフェクション。

第二次大戦ちゅう、ナチスの政策により、
ポーランドでもユダヤ人にたいする迫害が
エスカレートするいっぽうだった。
ドイツ人の実業家であるシンドラー氏は、
軍需工場を経営し、
工員としてユダヤ人をやといいれていた。

やがて、シンドラー氏のすむ町にも
ゲットー(ユダヤ人隔離居住区)がつくられ、
強制的に劣悪な環境へとうつされる。
さらに町に強制収容所ができると、
ゲットーにすむユダヤ人は全員そこへ移動させられる。
支給されるはずの衣服や食事は闇市にながされ、
さむさから身をまもれない囚人服と、
うすいスープしか提供されない。
収容所の所長の気分しだいで
囚人たちはかんたんにうちころされてしまう。
希望がなく、死をまつだけの収容所での生活。

シンドラー氏は、施設の収容所をつくり、
そこの工場に、いぜん自分の工場ではたらいていたユダヤ人を
うけいれようとする。
軍需工場での兵器づくりには
熟練工としてきたえあげた工員が、
どうしても必要だというのがおもてむきの理由だ。
シンドラー氏による私設の収容所では、
氏のポケットマネーにより
2000カロリーの食事が保障され、
親衛隊員の監視はとどかず、
男女の隔離も形だけにとどまり、
人間的な生活がいとなまれていた。

「シンドラーのリスト」とは、
シンドラー氏の収容所へ移動する
ユダヤ人の名前をのせたリストであり、
そこに名をつらねることが、
生きのびる唯一の道だった。

シンドラー氏は、ナチスと正式に交渉し、
軍需工場として自分の事業をみとめさせる。
ただ正面からおねがいしても
ききいれられっこないので、
膨大なワイロで親衛隊幹部を買収するのが
シンドラー氏のやり方だ。
影響力のある人物をディナーでもてなし、
酒や食糧をワイロに手わたして コネクションをつくる。

シンドラー氏が、身の危険をおかしてまで
なぜユダヤ人をすくおうとしたのか
ほんとうのところ よくわからない。
だれかにたのまれたわけではない。
ひととして当然のこととはいえ、
それをあの時代に実行できたドイツ人が
はたしてどれくらい いただろう。
自分にできる範囲でやったとはいえ、
当時の状況でユダヤ人をすくおうとするのは
自分の命とひきかえでもあった
(じっさい、シンドラー氏は3どゲシュタボに逮捕されている)。

自分の工場ではたらくユダヤ人が、
強制収容所につれさられようとしたら、
シンドラー氏はその熟練工が
兵器の生産にかかせない人員であるとつよく主張する。
あのなかにはかけがえのない兵器想像の熟練工がいます。わたしが自分で何年もかかって仕込んだんです。代わりの人間にその技術を教えろと言われても、急には無理な話です。わたしに必要なのは、このリストに載っている女たちなんです。

10歳にみたない子どもが
なぜ工場に必要なのかと たずれられたら、
砲弾の内側をみがくには
ちいさな子どもの手でなければとどかないと
シンドラー氏はためらいなく はったりをかませる。
秘密兵器にかかわっているはずの
シンドラー氏の工場は、じっさいには
なにも生産していない。
工場での仕事のおおくは偽装であり、
親衛隊といえども シンドラー氏の工場に
かんたんには たちいれないほどの権限を
シンドラー氏はおおくのコネによって かちえていた。

シンドラー氏は倫理感のつよい道徳家だったわけではなく、
美食と酒をこのみ、つねに複数の愛人との関係をもち、
魅力的であれば親衛隊の女性隊員ともねてしまう。
このような世なれたあそび人であるシンドラー氏が、
なぜユダヤ人をすくうのに、
あれだけの金と労力と、危険をおかしたのかは
なんどもくりかえすように理由を説明できない。
シンドラー氏によってすくわれたユダヤ人たちが、
どれだけ氏の行為に感謝したかについて 本の最後にふれてある。
戦争がおわり、収容所にいたユダヤ人たちが開放されると、
シンドラー氏は それまでのかがやきをうしなっている。
シンドラー氏は 虐殺へのいかりにもえながら、
迫害からユダヤ人たちをまもるのに
生きがいをかんじていたようにもみえる。

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posted by カルピス at 21:45 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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