あれほどゆるぎなく、鉄壁な存在だった夏が、
いつのまにか あつさにおとろえがみえはじめ、
エアコンなしでもねむれるようになり、
寝酒がジン・トニックから焼酎のロックや
ウィスキーの水わりにかわりつつある。
寝酒になにがほしくなるかで、季節のうつりかわりが
かなりの程度わかる。
わたしのからだが寝酒としてもとめる焼酎のロックは、
もう夏がおわったとつげている。
すこしまえにシングル・モルトのボウモアをかった。
アイラ島でつくられるシングル・モルトのうわさは
かねがねきいていたので、
まえからいちどためしたいとおもっていた。
村上春樹さんによると、
一くち飲んだらあなたは、「これはいったいなんだ?」とあるいは驚かれるかもしれない。でも二くち目には「うん、ちょっと変わってるけど、悪くないじゃないか」とおもわれるかもしれない。もしそうだとしたら、あなたは(かなりの確率で断言できることだけれど)三くち目にはきっと、アイラ・シングル・モルトのファンになってしまうだろう。僕もまさにそのとおりの手順を踏んだ。
『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』p46
でも、いつもは1500円もしないウィスキーをのんでいるわたしなので、
4000円以上するボウモアをまえにすると、
なかなかふんぎれないまま、いつもの安酒をかってしまう。
はじめてのむボウモアはどうだったか。
つよい個性を正当に評価するだけの舌と経験が
残念ながらわたしにはたりないようで、
「いったいなんだ?」とはおもわなかったし、
三くち目にもファンにはならなかった。
おいしいけれど、とくにつよくはひかれない。
せっかくはじめたシングル・モルト体験なので、
もういっぽ足をふみいれ、
おなじ酒屋の棚にならべてあった
ラフロイグをつぎはためしてみたい。
ぜんぜんはなしはちがうけど、
わたしがすきな軽ハードボイルドに
カーター=ブラウンのアル=ウィラー警部シリーズがあり、
この警部は捜査中でもしょっちゅうスコッチをのんでいる。
のみものを あいてからたずねられると、
「スコッチのオンザロック、ソーダをちょっぴりいれて」
ときまってこたえる。
このいい方がすきで、わかいころはよくマネしたものだ。
でも、だんだんとハイボールがすきではなくなり、
水をちょっぴりいれて、と水わりをこのむようになった。
シングルモルトも ただしいのみ方としては、
水で半分ほどわってのむのだという。
氷はいれない。
わたしがボウモアになじめなかったのは、
氷をいれないのみ方かもしれない。
スコットランドそだちのボウモアにとって、
日本の夏は あまりにも野蛮な季節だ。
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