炭鉱の危機をめぐってゆれる ちいさな町の、ブラスバンドが舞台。
いまさら石炭でもないだろうに、とさめた目でみていたら、
30年まえの作品だった。当時としてはホットな話題だったのだ。
いまごろみて文句をいうわたしのほうがわるい。
(以下ネタバレあり)
映画の前半はほとんど起伏がない。
失業におびえる坑夫たちと その家族が淡々とえがかれ、
そのあいまにブラスバンドの大会がはさまれる。
さきゆきの心配から、夫婦関係はギスギスしたものになり、
演奏もおざなりになっている。
音楽ものによくありがちな、猛練習のすえ
たかいレベルにたどりつくといったドラマは存在せず、
もりあがりにかけたままさいごの大会まですすむ。
バンドリーダーのダニーは、炭鉱夫のなやみをまったく気にとめない。
炭鉱が閉鎖されようが、そんなことはたいした問題ではなく、
質のたかい演奏だけが 彼にとって人生の目的であり、
ほかのものもまた 音楽をこころざすのなら
そうでなければならないときめつけている。
そのまえには たとえ廃坑になって仕事をうしなおうとも
日常の生活など とるにたらぬものだ。
でも、決勝大会で 彼らが演奏する魂のこもった曲をきいて、
ダニーはやっと自分のまちがいに目がさめる。
収入のあてがなく、希望もない生活のなかでは
演奏になんの意味があるのか。
安定したくらしがあってこその音楽なのに、
いまのバンドメンバーからは その保障がすべてうばわれている。
ダニーはトロフィーをうけとらないと宣言し、
炭鉱産業をほろびるにまかせ、
はたらくものの尊厳を ないがしろにしてきた政府を批判する。
この10年間、政府は産業を破壊してきた。産業だけでなく、共同体や家庭をも。
職だけでなく、生きる意志までも奪っている
決勝へすすむために必要な資金を、
会社側にぞくしていた女性が提供したり、
ダニーがおもい病気をわずらい、
それでも病院をぬけだして大会にかけつけたりと、
つくりはかなりベタだ。
そのひくくおさえられたぶん、ダニーのスピーチがいきてくる。
サッチャーを批判するセリフがあったのでおどろいたけど、
1996年は、そんな時代だったのだろう。
EUから脱退したいまのイギリスなら、
この作品は再評価されるのではないか。
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