サブタイトルは、「華人廟から都市の出目を知る」。
タイの町をつくったのは、外国からの移民であり、
なかでも中国からやってきたひとたちによる影響がおおきい。
本書でいう華人とは、中国からの移民のことで、
華人廟は、日本でいえば神社のような存在らしい。
華人たちがタイの町につくった華人廟をたずねると、
中国移民たちの出身地がわかり、
そこから町の発展の経緯を、おおまかに推理できるという。
桑野氏は、ときおり得意そうに自分の推測をひろうし、
そのたねあかしをしながら 読者を華人廟へとみちびこうとする。
華人たちは、タイにうつりすんだとき、
出身地にわかれてよりあつまり、同郷のものどおしで仕事についた。
彼らがつくったタイの町は、
彼らが中国のどこからやってきたかによって、
町ごとに それぞれはっきり特徴のある発展をとげた。
桑野氏は、タイの町にかならずある華人廟をたずねながら、
どのようにしてその町がつくられていったかをさぐっていく。
わたしには、よんでいてさっぱりわからないところもあるけれど、
こうしたやり方でタイの発展をしらべようとする著者の
ものずきといいたくなるような情熱を、おもしろいとおもった。
おおくの旅行本とはちがい、
ものすごくマニアックな町めぐりであり、
ふつうはあまり関心をもちにくい華人廟めぐりに
著者は喜々としてとりくんでいる。
といって、生活のすべてをなげだして、みたいな悲壮感はない。
いい年こいたおじさんが、趣味としてたのしんでいる。
そのかるさと、ときおり顔をのぞかせる
アカデミックな知識のバランスがとてもよい。
謎がとかされる過程がおもしろいというよりも、
著者のマニアックな情熱がただめずらしく、
好感をもちながらの読書となった。
まったくジャンルはちがうけれど、本書をよみながら、
くしくも、おなじくタイを舞台にした
『タイ国鉄4000キロの旅』(渡邊乙弘・文芸社)をおもいだした。
タイ国内をはしるすべての路線にのる旅であり、
鉄道に関心がないものには、まったく理解できない情熱をかたむけて、
著者は車窓にひるがる風景をこまかく記録している。
鉄ちゃんでないわたしでも、
これだけ突出した情熱にふれると、税別2300円の本なのに、
そして図書館にいけばかりられるのに、
おもわずアマゾンに注文した。
対象がなんであれ、だれかがゴソゴソと
おもしろがってとりくむ本は魅力がある。
いちじるしい情熱はあきらかに伝染する。
そんな情熱を発散させてくれる場所として
タイはなにかと魅力にあふれた国のようだ。
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