定年後の生活が、5つの短編におさめられている。
だれにとっても定年後のくらしは はじめての体験で、
お金があってもなくても、配偶者がいてもいなくても、
おもっていたとおりにはすすまない。
なにがそんなにむつかしいのだろう。
「キャンピングカー」は、
ひとりよがりに男がえがきがちな
定年後の「夢」についてのはなし。
主人公の男性は、早期退職したら、
妻をさそって、キャンピングカーによる
気ままな旅行をたのしみにしていた。
でも、秘密にしていた計画を家族にうちあけると、
妻はおもってもみなかった反応をしめす。
自分にはほかにやりたいことがあるのだから、
「気ままな」旅行はぜんぜんありがたくないし、
キャンピングカーに1000万円もつかうのは
経済的にも賛成できない、というのが妻のいいぶんだ。
男性がたのしみにしていた老後の計画は、
妻のネガティブな反応でいっぺんにくずれる。
男性は不機嫌になり、家族との関係がぎくしゃくしはじめる。
お金のことが心配というのなら、再就職してやると、
男性はしりあいに かるい気もちではなしをもちかけた。
でも、以前のつきあいがいかにふかくても、
いったん会社をやめてしまえば、むかしの肩書は通用しない。
あわてて再就職・転職セミナーにでかけても、
営業職だけについていたこの男性は、
ほかの会社が必要とするキャリアにとぼしく、
とても一流企業への再就職などかなわない。
自分がおかれている現実のきびしさに、男性はようやく気づく。
ハローワークで仕事をさがしても、
自分の能力を発揮できそうな仕事はなく、
検索にひっかかるのは、
交通整理やビルの清掃といったものばかりだ。
交通整理やビルの清掃でいいではないかとわたしはおもう。
キャンピングカーでの旅行だって、
妻がのり気でないなら、ひとりでいけばいいのに。
でも、妻との「気ままな」旅行が この男性の夢であり、
定年退職後の優雅な生活のシンボルだったのだから、
ひとりで、というわけにはいかないのだろう。
それに、だれも自分を正当に評価してくれないのがつらい。
男って、めんどくさくて かなしい生きものだ。
妻はぜったいによろこんでくれると
きめてかかっていたおもいこみが あわれをさそう。
わたしには、1000万円もするキャンピングカーは
とてもかえないし、興味もない。
わたしがやりたいのはスーパーカブでの旅行なので、
はじめから配偶者をあてにしてはいない。
とはいえ、わたしだって老後に配偶者をさそい
フランスのワイナリーをたずねたい、なんて
ときどきおもいえがく。
わたしが配偶者にこの提案をしたとき、
さっと顔がくもらないよう ねがうばかりだ。
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