ジェフユナイテッド千葉に初のアルゼンチン人監督がやって来た。そして、まもなく食事のメニューからカレーが消えた。
この本は、「はじまり」がなく、
いきなり「きえたカレー」のはなしでスタートする。
最高の「つかみ」が みごとにわたしの好奇心をとらえ、
そのさきがすぐにしりたくなる。
いったい、この監督はなにをかんがえているのだろう。
この本は、いくつかのテーマにそって、
典型的な例となる監督が分析されている。
いつもながら西部さんは文章がたくみなので、
すこしよみはじめると、
あとは一気におしまいまでページをめくる。
章だては、以下のとおり。
・信念を貫くということ
・天才選手は天才監督になりえるか
・長期化する創業者
・継承力
・リアリストの見る夢
・長期的戦略と監督えらび
(日本代表監督の場合)
カレーをメニューからけしたのは、
ジェフユナイテッド千葉のファン=エスナイデル監督だ。
西部さんによると、この監督は、
ディフェンスラインをものすごくたかく設定するので、
ゴールキーパーは広大なスペースをカバーする必要があり、
どうしても点をいれられやすくなる。
しかし、「信念を貫く」この監督は、
自分のサッカーをやるかぎりにおいて、
必要なリスクをおかすのにためらいがない。
むしろエスナイデルの態度で目立ったのは、”このサッカーをやる限りこのリスクは受け入れなければならない”というものだった。例えば、GK(ゴールキーパー)が前進しているためにガラ空きになっているゴールにロングシュートを決められても、それはコストである。
わたしがすきだった元日本代表監督のオシムさんも、
リスクのはなしをよくしていた。
リスクをおかさないサッカーはうつくしくない、
というかんがえ方で、
ひいてまもってカウンターねらいのサッカーよりも
はるかに魅力がある。
西部さんの豊富なひきだしをもってすれば、
この本をかくのはたやすかったにちがいない。
監督たちの戦術を、ただ紹介するだけでは
ほかの本とおなじになるところを、
西部さんはカレーのはなしからはじめたりする。
なによりも西部さんがすぐれているのは、
大量のデーターを、きれいに整理するちからではないか。
サッカーのながい歴史において、
有名な戦術と選手が、これまでにたくさんうまれている。
それらを本のテーマにそってわかりやすく説明し、
特徴をときあかしてくれるのが西部さんのサッカー本だ。
比喩がうまく、うつくしくたくみな文章に、分析力。
おもしろそうな企画を、これらのちからで料理するのだから、
西部さんの本は、どれもよまずにおれなくなる。
この本もまた、期待をうらぎらなかった。
守備ラインをありえないほとだたかくあげる
ジェフユナイテッド千葉のサッカーをみてみたい。
リアリストであるとともに、ロマンチストでもある監督が、
本書には何人も登場する。
つよいだけがチームの魅力なのではなく、
リスクをおかしてゴールをめざすサッカーがわたしはすきなので、
なおさら本書はわたしのこころをとらえた。
川崎フロンターレのサッカーをつくった風間監督が、
名古屋グランパスの監督としてJ1リーグにかえってくるし、
浦和と広島で独特のスタイルをひろめたペトロビッチ監督も、
コンサドーレ札幌の監督として指揮をとる。
今シーズンのJリーグ、そしてWカップがたのしみになる。
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