2018年06月04日

『偽りの楽園』(トム=ロブ=スミス)

『偽りの楽園』(トム=ロブ=スミス・田口俊樹:訳・新潮文庫)

トム=ロブ=スミスといえば、
ソビエト連邦時代を舞台にした レオ3部作が記憶にのこる。
壮大なスケールでソビエト連邦の内幕がえがかれており、
ミステリーの大作として、3冊ともそれぞれおもしろかった。
つぎはどんな作品かとたのしみにしていたら、
『偽りの楽園』は、まるでデビュー作をおもわせる、
こじんまりとした小説に作風がかわっている。
印象としては、村上春樹があたらしい課題に挑戦しようと、
実験的にかいてみたような作品だ。
トム=ロブ=スミスとしらされなかったら、
とてもおなじ作家の作品とはおもえない。
つまらないわけではないけど、なかなかはなしが核心にはいらず、
じらされながらよんでいると、後半でいっきに急展開をみせる。

ロンドンでくらしているダニエルに、父親から電話がはいる。
母親の具合がよくないという内容だ。
ダニエルの両親は、あたらしい生活をはじめるため、
半年まえにスウェーデンへひっこしている。
その母親が、精神病で入院したという。
きゅうなしらせにダニエルがおどろいていると、
こんどは母親から電話がかかってきた。
お父さんからあなたに話があったと思うけれど、あの男があなたに言ったことは全部嘘よ。わたしの頭はおかしくなんかなってない。

夫からにげだすように、母親はロンドンにやってきて、
むすこであるダニエルに、スウェーデンでなにがあったかをはなす。
まわりがぜんぶグルになって、自分を精神病あつかいにしていると。
しかし、母親のはなしぶりとその内容は、
いかにも精神をやんでいるひとのきめつけにおもえる。
ダニエルは、母親と父親にはさまれて、
どちらをしんじていいのかわからなくなる。

おさないころからダニエルの母親は、
家族との関係がうまくいかず、くるしんでいた。
スウェーデンの農村における 排他的な面が、
母親のようなタイプの人間には、生きづらい社会となる。
50年たったいま、おさないころ、
こころの奥にしまいこんだつらい体験が、しだいにあふれだした。

おもいはなしでありながら、あとあじはわるくない。
自分の家族関係についてもかんがえざるをえない。
わたしは配偶者のことをどれだけしっているか、
むすことはどんな関係をきずけているかが、ふとあたまをよぎる。

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posted by カルピス at 22:00 | Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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