(五百蔵容・星海社新書)
W杯の2ヶ月まえのだいじな時期に、
代表監督がきゅうに解任されるという「事件」のうらには、
いったいどんなうごきがあったのだろう。
世間で話題になった事件のあとでは、
こうした「しらざれる真実」みたいな本がよくつくられる。
ただ、そうした本は、きめつけた視点による
質のひくいゴシップ本になりがちな印象がある。
事実をあきらかにするというよりも、
「事件」につけこんだだけのまずしい内容ではないかと、
本屋さんでページをめくりながら、
わたしは本書へうたがいの目をむけていた。
わたしはこれまで五百蔵さんのかかれた本をよんだことがなく、
内容にたしかさがかんじられない本では残念だから。
さいわい五百蔵氏は、誠実なサッカーライターで、
事実をあきらかにしながら
ハリルホジッチ氏のひととなりを紹介している。
ただ、おおくの紙面をわりあて、
戦術がくわしく説明されているものの、
わたし程度のにわかファンには
むつかしすぎて理解できなかった。
ハリルホジッチ氏がやろうとしたサッカーを、
ほんのすこしイメージしたにすぎない。
ハリルホジッチ氏といえば、「デュエル」(1対1のたたかい)と
「たてにはやい攻撃」を
日本代表にもちこもうとしたことでしられる。
これらのキーワードは、いっけんわかりやすいがゆえに、
ひとりあるきしやすく、まちがった解釈がひろまりやすい。
残された言葉を確認する限り、ハリルホジッチは「縦に速く」とは1回も言っていません。対して、「スペースに、背後に速く入っていくサッカーをしたい」という意のことは、就任以来何度も語っています。
サッカー協会が、ハリルホジッチ氏がめざすサッカーを
正確につたえようとするのではなく、
反対に、あやまった解釈をほったらかすことで、
解任の理由につかわれたような印象をうける。
Wカップロシア大会で、日本は予想以上の活躍をみせ、
社会現象とでもいうべき ひろがりのある大会となった。
グループリーグをかちあがったこと、
決勝トーナメントでベルギーをあいてに
いい内容の試合をしたことで、
しだいに日本代表がおおきな関心をあつめた。
とはいえ、だからハリルホジッチ氏の解任はただしかった、
とはならない。
じゅうぶんな準備期間があれば、
もっとうえの成績をおさめていた可能性だってある。
ハリルホジッチ氏は、世界をあいてに、
かつことのむつかしさをよくしっている人物であり、
どんな選手をえらび、グループリーグをたたかったのかを
ぜひWカップ本番でみてみたかった。
資料として、ハリルホジッチ氏を代表監督にまねくときに、
日本サッカー協会の技術委員長として、
重要な役割をはたした霜田正浩氏へのインタビューがのっている。
田嶋幸三会長よりも、ずっとまともな感覚のもちぬしで、
霜田氏がハリルホジッチ氏をささえつづけていたらと、
いまになっても残念でならない。
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