森田博洋之・加藤忠相:著
南日本ヘルスリサーチラボ:発行
理事長から、必読書としてこの本が指定された。
福祉とか介護の本はこれまでにいくつもよんでいる。
いまさら新鮮な刺激をうける本があるだろうかと、
かるい気もちでよみはじめると、これがすごい本だった。
ふかい内容がわかりやすくまとめられている。
会話方式ではなしがすすめられるなかで、インタビューがあったり、
こまかな説明をコラムでおぎなったりと、スラスラよめる。
それでいて、つたえる内容は具体的であり、ふかくてふとい。
小規模多機能型施設「あおいけあ」を経営する加藤さんは、
・介護の最終ゴールは『人間関係・信頼関係を築くこと』
・自立支援
・地域をまきこんだとりくみ
という3つのかんがえ方を中心にすえている。
どれもよくきくことばなので、
「たてまえ」としてとらえ、かるくながしがちだ。
たとえば、いつでもどこでも自立支援ということばをきくけど、
じっさいに正面から自立支援にとりくむ事業所がどれだけあるだろう。
理想は自立支援だけど、現実は職員の都合、というのが
じっさいに介護の現場ではあたりまえにおこなわれている。
介護保険法にかいてあるのは自立支援なので、
自立を支援するのがわれわれの仕事と
加藤さんは文字どおり、意義どおりに自立支援をとらえている。
あたりまえのようでいて、あまりないのが現状だ。
お茶をだしてあげる、オシメをとりかえてあげる、などは、
お世話であって自立支援とはよばない。
たとえばウチの職員が、『○○さんの部屋のお掃除、キッチリ終わりました!』って報告してきたとします。(中略)
私はそれを全く評価しません。なぜなら介護のプロがする仕事ではないからです。介護職は掃除屋さんではないんですよ。『掃除してあげる』ではなく、どうしたら○○さんが掃除できるか、環境を整えるとか、意欲を引き出すとか、そう言う『自立支援』をしないといけないわけです。(中略)システムエンジニアとして雇った社員に『トイレ掃除してきました!』って言われても困りますよね。それと同じです。(加藤)
・「あおいけあ」の最終ゴールは『人間関係・信頼関係を築くこと』
信頼関係がいちばんのリスクマネージメントであり、
ひごろから関係ができていれば、
事業所の方針を理解してもらえるし、
もしなにかトラブルがあった場合でも、
いつもあれだけやってくれているひとたちがいうのだから、
まちがいないだろうと、理解・協力してもらいやすい。
・地域をまきこむ
のも、そうしたほうが「あおいけあ」にくる老人たちが
いきいきと活動できるからだ。
ちかくの幼稚園から子どもたちがきてうたをきかせてくれる、
なんて、よくありがちな「交流」ではなく、
ひごろから、子どもたちがあたりまえのこととして
「あおいけあ」にではいりし、老人たちとあそんでいる。
老人たちはおゆうぎみたいなプログラムに参加しなくても、
日常の活動として、自分の得意なこと、
たとえば畑しごとだったり、大工仕事だったり、
お茶をいれたりにとりくんでいる。
まわりのひとに、お酒をついでいるひともいる。
自分が介護をうける側になったとき、
「あおいけあ」みたいな施設ならいってみたいと
おおくのひとが えらびたくなるのではないだろうか。
施設でお酒を呑んでいいか、行政に聞かなくていいんですか?っていわれたことがあるんですけど、どこでお酒を飲もうが飲むまいが基本的に個人の自由です。高齢者になった、介護される側になっただけで、どうしてお酒を飲むのが許可制になるんでしょう。お役所にお伺いをたてる、っていうこと自体がナンセンスじゃないですか?介護のプロはこちらなのに、なんで役所で座っている素人に聴くの?って。そういう人は、出来ない理由をさがしてるだけ・・・。
この本を、すべての職員がよむ意味はおおきい。
ひごろの実践に、この本の視点をもちこむだけで、
サービスの中心にすえる方向性があきらかになる。
老人介護の「あおいけあ」が
自立支援を正面からとらえた実践をしているのだから、
わかい障害者を対象にしたわたしたちは
自立支援を本来的な意義において、
活動の中心にすえてとりくまなければならない。
わたしたちも、「あおいけあ」の職員とおなじように、
お世話をするのが仕事なのではなく、
自立を支援するために給料をもらっている。
この本をよんだ刺激により、
どんなあたらしいうごきがでてくるかが たのしみだ。
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