2019年12月07日

『モヤシ』(椎名誠) 痛風をきりくちに、モヤシとモズクをめぐる おとっつぁん冒険小説

『モヤシ』(椎名誠・講談社文庫)

健康診断で、尿酸値がたかいと医者にいわれた「私」は、
尿酸値をあげる原因であるプリン体についてしらべる。
白子・あんきも・かつおぶし・アジやイワシの干物など、
すきなたべものは のきなみプリン体がおおく、
酒のなかではビールもよくないらしい。
プリン体をさけるため、「私」がモヤシに注目したことから
本書のタイトルが「モヤシ」となっている。

「私」からわかるように、
この本は私小説のかたちをとっている。
よくありがちな「痛風こわい」のはなしにおわらず、
モヤシをきりくちに、私小説にしてしまうのが
さすがに椎名さんのうまいところだ。
たべものについてのエッセイでもなく、
小説のなかにモヤシがすんなりおさまっている。
もともとモヤシがまえからすきだった「私」は
モヤシを春巻にいれ、さらに生春巻へとすすみ、
ついにはモヤシの栽培キットを手にいれて、
取材旅行につれていき、モヤシをそだてながら旅館をまわる。

後半のモズク編では、なかまのおとっつぁんたちと、
沖縄へ野球の合宿にでかける。
旅館にとまらず、テントをはっての自炊生活なので、
ほんとうに野球の「キャンプ」だ。
でも、せっかくやってきた久米島では、練習場をかりられず
(けっこういいかげんな合宿だ)、さらにはなれ島へむかう。
ひとが5人しかすまないその島にも、野球をするだけのひろさがなく、
さらに数百メートルはなれた無人島までいくことに。
島へむかう船をかりられなかったため、
おとっつぁんたちはイカダをつくりはじめる。
無人島にイカダとくれば、まるで冒険小説だ。
ひとが全員のるのはむりでも、荷物だけでもはこべるようにと、
浜にうちあげられている材木をくみあわせ、
最小限のイカダをつくるあたりがリアルだ。
ごっこあそびのだいすきなわたしをわくわくさせる。

「あとがき」がまたよませる。
椎名さんはその後『モヤシ』の続編として
『ナマコ』という小説をかいており、
シイナマコトという名前からか、
ナマコにはつい気あいがはいってしまうという。
モヤシにも、もっとがんばってもらいたいと、
モヤシをいれてのカレーうどんのレシピまでついている。
「モヤシ業界のさらなる発展のため」というから、
椎名さんのモヤシ愛はふかい。
尿酸値を心配していた椎名さんは、その後
痛風を発症することもなくいまにいたっている。
プリン体はどんなたべものにも おおかれすくなかれふくまれており、
プリン体に一喜一憂するよりも、
ストレスがなによりもよくないとわかってきたそうだ。
だから私はそれを都合のいいように解釈して、酒場に入ってもあまりそれらのことは気にしないで、いままでどおりなんでも好きなものを楽しく肴にしてビールを飲む、という生活にもどった。

わたしの同僚にも痛風になったものがいるし、
わたしだってほし魚・青魚がすきなので、痛風は他人ごとではない。
でもまあ、年をとればからだのあちこちにガタがくるように、
尿酸値や血圧、コレステロールは、おとっつぁん世代の
トレードマークみたいなものだ。
椎名さんのように、あまり気にしないで、
のんだりたべたりを たのしくつづけたい。

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posted by カルピス at 20:23 | Comment(0) | 椎名誠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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