わかい女性による北米・南米での自転車旅行記。
よくありがちな本にならなかったのは、
著者の青木さんは、伝統文化への関心がふかく、
土地と自分にあったくらしを、
さがしながらの旅となっているからだ。
わかものの自分さがしなんて、
それこそあたりまえにおもえるけど、
青木さんがもとめる「なにか」は筋金いりだ。
むかしながらのくらしをつづけている村や、
あたらしいスタイルをきずきつつあるコミュニティを
あの手この手でさがし、たずねている。
コミュニティの紹介が目的におもえるほど、
とちゅうまではちっとも自転車旅行記らしくない。
青木さんは、日本で大学を卒業したのち、
企業の本社(しかも銀座)でOLをしていたのに、
このままではよくないのでは、と1年でやめている。
農体験や子どもたちのキャンプなどにとりくむ
NPOに仕事をかえ、田舎ぐらしをはじめた。
狩猟免許をとり、獲物のさばき方もこのときにおぼえている。
(わなをしかけ)朝の見回りに行くと、小さな子ジカがそこにいた。愛らしい目でこっちをみては逃げようと必死に暴れている。ようやく獲物がかかったことの喜びと、自分の手で命を奪う罪悪感との狭間で心は大きく揺れた。
肉をたべておきながら、自分では動物をさばけないわたしとちがい、
このひとのとりくみはほんものだとおもった。
こっちをじっとみる子ジカに、とどめをさすなんて、
軟弱なわたしにはぜったいできない。
本書の構成は、
・カナダ・アメリカ編
・アンデス編
・パタゴニア編
・キューバ・メキシコ編
となっている。
どこをはしっても、ツアーに参加してまで
その土地ならではの生活や、手づくり品に青木さんは目をむける。
いろんなところに、自分にあった生活をきずいているひとたちがいる。
ネットやしりあいのしりあいの紹介などで、
青木さんはいろんな場所とひとをたずねる。
バンクーバーからフェリーで3時間のソルトスプリング島では、
ハリーさんがひらくコミュニティで
おとな14人・子ども5人と動物たちがくらしていた。
ハリーさんがいっしょにくらすひとにもとめるのは尊敬とおもいやり。
おたがいが、あいてに敬意をはらい、おもいやりをもってくらせたら、
居心地のいいコミュニティになるだろう。
簡単そうでいて、なかなかできないことだけど。
まえにみたことがあるウッドストックコンサートを記録した番組では、
50万人のわかものが、だれもに親切なすばらしい空間をつくっていた。
北米には、むかしからそうした運動に関心をむける下地があるようだ。
このごろの、自分の国ばかりをだいじにする風潮とちがい、
友愛にみちた関係をのぞむひとたちが たしかにいる。
南米のチリでは、車も草刈機もなしで、
土地にあったくらしをいとなむ ポールさんを紹介している。
手で(草を)刈ると、その土地の地形は細かいことによく気がつくんだよ。それにカエルだって逃げる時間があるだろう。みんな早く目的地にたどり着こうとするけど、その”過程”の方が大事なんだよ。
この本は、大陸の縦断や横断が目的ではないし、
はしった距離が特別なわけでもない。
それなのに、これまでによんだ自転車本とちがう魅力が
この本にはみちている。
おなじ「自分さがし」の旅であっても、
青木さんはひとと自然との調和をもとめているからかもしれない。
自分さがしだけでなく、ちゃんと自転車にものっている。
あれた道やつよい風ではげしくころび、
2回も脳震盪をおこしている。
いっしょにはしっていた仲間や、
偶然とおりがかったひとにたすけられているけど、
そうして幸運にめぐまれていなかったら、
何回かは死んでいてもおかしくないハードな旅だ。
その旅をつづけるだけのガッツが青木さんにはあった。
ひとことでいうと、青木さんはいい旅をした。
日本にかえってからは、日本のことをもっとしりたいと、
自転車で31都道府県をはしっている。
誰かが田んぼの光景を「日本のウユニ湖」と称していたけれど、比較するまでもなく、この国には美しいものがたくさんあるのだ。
そんな美しいもの、そしてそれを受け継ぎ、次の世代へとつないでいく素敵な人たちにもっと出会いたい。こうしてわたしはまた次なる旅に出る。
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