上・中・下の3冊にわかれている。
単行本のときは、さぞあつい本だったのだろう。
父親の派遣さきである、イランのテヘランでうまれた「僕」が、
37歳になるまでのものがたりだ。
つよい個性をもつ母親と姉をみてそだった「僕」(歩)は、
つねにうけみで、波かぜをたたせないよう生きてきた。
イラン革命がおき、いったんは日本へもどった「僕」の家族は、
5年後にエジプトのカイロへむかう。
父親が海外勤務のおおい会社にいるためであり、
こうした外国での体験が、歩の家族におおきな影響をあたえた。
ものがたりが本格的にうごきはじめるのは、
一家がエジプトから日本にもどってからだ。
10歳になっていた「僕」は、これまでの経験をいかし、
ますますあたりさわりのない立場でいるよう配慮し、
中学・高校と、うまくきりぬけ、にげるように東京の大学へとすすむ。
自分とむきあわなかったツケは、30歳をすぎてからやってくる。
歩は、大学生活をたのしんだのち、フリーライターになる。
いちじは各方面から注目され、
確固たるポジションをきずいたようにみえたけど、
薄毛になったのをきっかけに、自信をうしない、
ゴロゴロと坂道をころがりおちていく。
ひっこみじあんになり、姿勢は猫背で、
恋人からみはなされ、家からでない生活からふとりはじめた。
なんとか歩くんをたすけてやってくれと、
作者におねがいしたくなるほどのおちぶれ方だ。
どん底をみた歩くんが、ラストでは自分でたちなおっていく。
かつて自分がすごしたカイロ、さらにテヘランをたずね、
自分をしんじるちからに気づいていく。
それにしても、家族のそれぞれに、
こんなにもいろんなことが人生でおきるものだろうか。
お姉さんは、幼稚園のころから問題児で、
ひきこもったり、教祖みたいな存在になったりと、
つねに「僕」の人生をおちつかなくしてしまう。
それが、ながい旅にでたのがきっかけで、
さまざまな体験から、ようやく自分がしんじるものにであえた。
お母さんは、日本にかえると
すぐにお父さんと離婚し、のちに再婚。
お父さんは、つねにやさしいひとで、
こまったひとには金銭的な援助をおしまない。
お母さんが再婚したのをみて、こころやすらかに出家する。
海外勤務とか、出家とかいうと、ハデな人生にみえるけど、
どの家にもおこりがちな山や谷のひとつでしかないともいえる。
歩は、お母さんの再婚や、お父さんの出家を、
おおげさにさわぎたてたけど、
わたしにはごく自然なながれにみえた。
どの家族にも、それぞれに栄枯盛衰があり、
どこに焦点をあて、どうかくかのちがいだけだ。
歩が高校生のとき、同級生が『ホテル・ニューハンプシャー』
をよんでいたのがきっかけで親友となった。
ジョン=アービングのこの小説は、
家族小説であること以外、まるでちがうはなしだけど、
「ものがたり」のちからをかんじさせる点では
『サラバ!』と にたところがある。
又吉直樹さんの解説がうまい。
ながい小説をよみおえた読者の興奮によりそい、
おおくのできごとをじょうずに整理してみせる。
『サラバ!』はちからにあふれた小説であり、
本をよむたのしさをぞんぶんにあじわった。
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