プロローグは、動植物園でねそべっている男ふたりが、
ああだこうだと、どうでもいいことをはなしている。
タランティーノの映画よりも、もっとくだらないはなしだ。
だんだんわかってくるけど、わかいほうの男はあんがいまともで、
年をくってるほうは、はたらく気なんてまるでない。
ダメ男のにおいがからだじゅうからプンプンする。
ふたりは競輪場でしりあい、たまたまかせげたものだから、
つきがおちるまではコンビをつづけようとしている。
はなしをもとにもどすと、この動植物園で、
ふたりはデートちゅうの高校生ふたりをみかける。
(以下ネタバレ)
ここで男ふたりと、高校生のふたりの接点がうまれるわけだけど、
けっきょくさいごまで、この2組は、からむようでいながら、
このままなんのかかわりも もたずにおわる。
どうでもいいふたりを、まるで主人公のように、
冒頭にもってくるのが佐藤正午さんのうまさだ。
いかにも事件の鍵をにぎっているようにみせ、
じつはさいごまで事件とはなんのかかわりももたず、
ただそばをかすめるだけの存在にとどめておく。
「事件」とは、少年がたまたま手にいれた拳銃で、
ある男へのしかえしをはかろうとする未来の事件だ。
そしてあとふとつ、拳銃が警官からうばわれた事件と、
少年がたまたまでくわした暴行事件とがある。
女性をなぐり、レイプする男にたいし、
少年はただたちすくむだけだった。
とめることもできず、男にボコボコにやられてしまう。
その少年が、たまたま拳銃を手にいれたら、なにがおこるだろうか。
表題の「リボルバー」は、警官がうばわれた拳銃のことで、
この警官は、責任をとって辞職してしまう。
呆然とくらしているうちに、しりあいのホステスから、
拳銃についての情報をえる。その線をおっかけるうちに、
拳銃を手にいれた少年が、その銃をつかい、
過去におきた事件のしかえしをしようとしているのをしる。
少年がねらう相手は、札幌のススキノにいた。
拳銃をもっていては飛行機にのれないので、
少年は電車をのりついで札幌へとむかう。
この少年は、冒頭の場面でおとこふたりがみた
高校生のかたわれなのだけど、
その相方である女子高生のほうも、
はじめは少年をつきはなしておきながら、
だんだんと事件にかかわってくる。
少年が拳銃をつかうまえにとめようと、
元警官といっしょに札幌までの旅にでかける。
こうやってあらすじをおっかけていると、
偶然ばかりにたよる都合のいい小説にみえる。
たまたま少年が拳銃を手にいれるなんてありだろうか。
元警官が、拳銃についての情報をえるのもうまくいきすぎる。
でも、相手への復讐にもえる少年に妙なリアリティがあり、
九州から札幌までの旅をからめて、
スピード感のあるロードノベルにしあがっている。
17歳の少年が、いちどひどい目にあわされたからといって殺意をひめ、
拳銃をつかってしかえしをはかるなんて、日本ではありえない。
そうわかっていながら、いくつかのうごきが複雑にからみ、
そのうちのひとつは、ただちかくをかすめるだけなのがおかしくて、
生理的な快感にひたりつつページをめくる。
ラストは大団円といっていいだろうか。
おちつくべきところにすべてがおさまり、
これまでとおなじ日常がまたはじまるだろう。
冒頭にでてきた男2人のコンビは、
競輪だよりの生活を確信犯的にくりかえそうとする。
こりないダメ男小説が、わたしはすきだ。
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