キリンの研究をこころざしたわかものが、
キリンの解剖をとおして 研究者としてそだってゆく記録。
わかものならではの、情熱にみちた探究心が
よんでいてとてもすがすがしい。
そういえば、キリンって、不思議な動物だ。
なぜあんなに首がながくなったのだろう。
それでいて、首の骨の数は、哺乳類の原則どおり、
7つ(ほかの哺乳類とおなじ)だという。
その不思議をときあかそうと、著者は解剖をつづけ、
とうとう8つ目の頚椎とでもいうべき 胸椎のはたらきを発見する。
著者は、学部生だったころにはじめての解剖を経験し、
その後、国内で死亡したおおくのキリンを手がけている。
10年の研究生活で、30体のキリンを解剖してきたという。
亡くなるキリンが毎年のようにでるので、
日本にはずいぶんたくさんのキリンがいるものだと おどろいた。
本書によると、日本にはおよそ150頭のキリンがかわれており、
アメリカについで、世界で2番めのキリン大国らしい。
キリンの解剖なんて、ふつうのひとにとって、
ものすごくとおい世界のできごとだけど、
著者にとってはごくあたりまえな日常(研究生活)だ。
著者は、自分がよくわかっている世界を淡々とかく。
キリン、とくにキリンの解剖について、
なにもしらないわたしたちは、著者が日常おこなっている
そうした非日常的な研究のようすがとても興味ぶかい。
著者のユーモアなんだろうけど、この本は、
だれもがキリンの研究者になる可能性がある、
という前提でかかれている。
ピンセットにもいろいろな種類があるが、初心者ならば、先端がかぎ状になっていて筋肉がつかみやすい「有鈎(ゆうこう)ピンセット」がおすすめだ。
骨格標本にはいくつかの作り方がある。一般的な家庭でもできる方法だと、地面に埋める、水に漬ける、鍋で煮るなど。虫に食べさせる、という作り方もある。
もしもキリンについて講演する機会があなたに訪れたなら、翌日の筋肉痛を避けるために、迷わずメスの頭骨をもって講演会場へ向かうべきだ。
いいであい、そしてよいタイミングでの検体にめぐまれ、
なによりも、「キリンがすき」をそのまま自分の仕事とし、
著者は世界一しあわせな研究者におもえる。
もちろんこれらは、著者がきずきあげてきた人間関係と、
やる気にみちた研究心によるたまものだ。
解剖に協力してくれる、さまざまな関係者に
著者は感謝の気もちをわすれない。
そして、解剖させてくれたキリンたちにも、
つねに敬意をはらい、尊厳をもってむきあっている。
この本には、著者の誠実さがずいしょにあらわれている。
「遺体損壊」でしかなかったニーナの”解剖”の記憶は、私にとって気持ちが暗くなるような苦しい思い出だ。筋肉の名前の特定もできず、知識の向上に至れなかったからこそ、せめて経験だけは活かしたい。(中略)
これは、シロがニーナのパートナーだったことも強く影響している。ニーナの経験を活かせなかったら、彼女だけでなく、目の前のシロにも申し訳が立たない。
ねばりづよくとりくんできた研究が実をむすび、
著者は キリンの第一胸骨が うごくしくみをつきとめる。
これこそが、第8番目の頚椎とでもいうべき、
第1胸骨のやくわりであり、胸骨をうごかすことで、
キリンの首は可動域が50センチふえ、
「高いところにも低いところにも頭が届く」
からだを手にいれた。
著者のまっすぐな姿勢がとても気もちいい。
キリンにあいたくなってきた。
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