2020年11月18日

『忖度しません』(斎藤美奈子)むつかしい本でも斎藤さんが説明してくれるから大丈夫

『忖度しません』(斎藤美奈子・筑摩書房)

PR誌「ちくま」に連載された5年分をまとめたもの
(2015年7月号〜2020年7月号)。
『月夜にランタン』『ニッポン沈没』につづく3冊めだ。
斎藤さんが、旬のテーマをえらび、それに関連した3冊をとりあげる。
ややこしい本でも、斎藤さんがよんで内容をおしえてくれるので、
読者はとても楽にそのジャンルのうごきをしることができる。
斎藤さんは、どんな本でも手にとって、バリバリよんでいく。
自分とあわない意見がかかれた本は、
わたしだったらよむ気さえおきないけど、
斎藤さんはめんどくさがらずに、どれどれと、まずよんでみる。
自分でよまなくても、斎藤さんがかわりによんでくれて、
内容をわかりやすくおしえてくれるのだから、
かんがえてみたら、すごくありがたいサービスだ。
もっとも、斎藤さんと相性があわないひとは、
このシリーズをよんでもそんなにおもしろくないかもしれない。
わたしは斎藤美奈子さんのデビュー作である
『妊娠小説』をよんで、するどいきりくちにすっかり感心した。
それ以来、書評家としての斎藤さんを信頼し、
わたしが理解できないうごきについて、おしえてもらっている。

『忖度しません』は、5つの章にわかれ、
番外編として新型コロナウイルスもとりあげている。
章だては下記のとおり。
・バカが世の中を悪くする、とか言ってる場合じゃない
・戦後日本の転換点はいつだったのか
・わかったつもりになっちゃいけない、地方の現在地
・文学はいつも現実の半歩先を行っている
・当事者が声を上げれば、やっぱり事態は変わるのだ
政治や経済がどう うごいているかは、わたしにはわかりにくい。
それらをあつかった本は、とても自分からはよまないし
斎藤さんに解説してもらわないと、よんでもわからない本ばかりだ。

そんなわたしでも、文学についての章はすんなり頭にはいる。
1972年にかかれた『恍惚の人』から50年ちかくたち、
小説は認知症をどうとらえるようになったか。
〈おほらのゆうこうが、そっちであれして、こう、わーっと、二階にさ、こっつるというか、なんというか、その、そもろるようなことが、あるだろう?〉(中略)『長いお別れ』は父の摩訶不思議な「ハナモゲラ語(?)を書きとめている点である。彼らの言葉が放つ巧まざるユーモアは、得もいわれる味を作品に加え、読者に開放感を与えるのだ。(中略)
 現実はそんなに甘くない、といわれればその通り。だが、私たちが家族の認知症と、あるいは自身の認知症と付き合っていかなければならないのであれば、絶望よりは希望、暗いよりは明るいほうがいいいに決まっている。妄想を描くのが得意な文学は、存外、認知症との相性がいい。

仕事や勉強で介護の本をよむのは気がおもいけど、
斎藤さんがおもしろそうに紹介してくれるとよみたくなる。
よむべき本はたくさんあるのに、理解できる本はかぎられている。
信頼できる書評家がいてくれるのは、すごくたすかる。

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posted by カルピス at 21:33 | Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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