2020年12月30日

『自転しながら公転する』(山本文緒)しあわせをかんがえすぎると 結婚できない

『自転しながら公転する』(山本文緒・新潮社)

プロローグは、ベトナムでの結婚式からはじまる。
この地で生きていく覚悟がかたられており、
こうやってゴールをしめした以上、
主人公はベトナム人の男性と結婚するのだろう。
(以下、ネタバレあり)

本編は、アパレル業界ではたらく都が主人公だ。
たまたまであった貫一との恋愛がえがかれてゆく。
中卒で、回転寿司のチェーン店につとめる貫一は、
学歴はないけど、人間的に信頼できそうで、
でもいまひとつ気もちがつかめないところがある。
さきの生活にほとんど無頓着で、
自分とのつきあいを、どうかんがえているのか はっきりしない。
いっしょにくらすようになったら、結婚をかんがえるだろうか。
貫一に、子そだての経済力を期待できるだろうか。
貫一の態度に 都はなんどもきれて ケンカをくりかえしながら、
ようやくおたがいの気もちがつかめたところで 事件がおきる。

結婚って、いろいろ条件をかんがえだすと、
ふんぎりをつけにくいものだ。
もっといい条件のひとがいそうで、
このひとと結婚して、わたしはしあわせになれるだろうか。
結婚としあわせとは関係ないことが、
このものがたりの裏テーマともいえる。
にえきらない貫一にいらつく 都の気もちもよくわかるけど、
うきよじみた貫一のスタイルにも魅力があり、
わたしは貫一に気もちをよせながら よんでいた。

貫一のつとめるお店には、ベトナム人のニャン君が
アルバイトとしてはたらいている。
まだ10代の学生であるニャン君は、であって間がないときから
都がかわいいとストレートにほめ、
結婚しようと かんたんにくちにする。
プロローグで、ベトナム人男性との結婚式がえがかれていたから、
このニャン君と都が、最終的には結婚するのだろうとおもいこむ。
せっかく貫一とうまくよりがもどったのに、
ここからどうやってニャン君との結婚にすすむのだろう。

エピローグは、プロローグのつづきで、
結婚式の場面が具体的にえがかれている。
でも、なんだかおかしい。
よむうちに、「私」は都ではなく、
都のむすめだということがわかってくる。
本書は「小説新潮」での掲載をまとめたもので、
エピローグとプロローグはかきおろしだという。
そういわれると、エピローグとプロローグは
なくてもよめるし、ないほうがいいような気もする。
都が最終的に貫一とよりをもどした時点で、
ものがたりは大団円をむかえており、
それはそれで、まとまりのある結末だった。
でてくる人物が、それぞれ自分の気もちを率直にかたり、
なんだかんだと いろんなことがおきるけど、
ジタバタと、一生懸命やっているうちに、
さいごはいいところにおちつくのが気もちいい。
つぎの展開がしりたくて、どんどんページをめくる。
山本文緒さんのうまさがさえ、いつもながらたのしめた。

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posted by カルピス at 17:08 | Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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