(三浦しをん・中公文庫)
せんじつよんだ三浦しをんさんの
『マナーはいらない 小説の書きかた講座』のなかで、
長編作品に どうとりくむかの例として本書がでてくる。
この本は、谷崎潤一郎の『細雪』を
現代風にアレンジしたものだという。
わたしは『細雪』をよんだことがないけど、
谷崎潤一郎という名前から、上品で、
おちついたものがたりを連想していた。
あるいは、おなじように女性4人のくらしをえがいた
映画『海街diary』のような内容を。
よみはじめると、ものすごいドタバタ小説で、
しをん節全開のエンタメだった。
とちゅうまでは、おおげさな表現がハナにつき、
このままよみつづけるに値する作品だろうかと うたがいもした。
たとえば、
マスクを装着した佐知は、埃舞い散る部屋へ突入し、雪乃に頼まれたとおりクローゼット内を検分した。
同居人にすぎない雪乃が、
「開かずの間」をことわりなく ヘアピンであけたり、
雨もりがひどくて大鍋が3分でいっぱいになるとか、
ドタバタがからまわりしておちつかない。
それが、1/3くらいのところでカラスがでてきてからは、
それなりに はなしがなめらかにすすみはじめた。
さすがしをんさん、といえなくもない。
ドタバタのエンタメとおもえば
しをんさんらしい わらいがたのしめる。
負け犬小説としてもよめそうだ。
「四人の女」というのは、
70まえの鶴代、その娘の佐知37歳、
佐知の友だちの雪乃もおなじ37歳。
雪乃の同僚である多恵美は27歳。
その4人が、「あの家」にくらしており、
それぞれ年齢なりの生活をいとなんでいる。
佐知はもうながいこと恋愛からとおざかっており、
このさき結婚しないでおわるかも、と予感している。
雪乃は、恋愛や結婚そのものにうたがいの目をむけており、
自分は結婚しないと断言している。
いちばんわかい多恵美は、元彼がストーカーとなり、
つきまとわれ迷惑しながらも、
ダメ男にあまく、元彼にも気をゆるしがちだ。
女たちのくらしをえがいた小説でありながら、
鶴代の母親は いちどもかたられていない。
父親はダメ男として顔をだすのに、
母親についてはいっさいふれられていないのはなぜだろう。
わたしがどこかをよみおとしているのかと気になった。
鶴代の性格形成には、母親の存在がかかせないだろうに。
(以下ネタバレあり)
なぜ「あの家」などと距離をおいたタイトルかというと、
三人称でかたるのが、「神」だけでなく、カラスだったり、
亡くなった佐知の父親だったりするからだ。
とくに、佐知の父親は、おわり100ページから
自己紹介したのち 急に霊となって登場し、
カッパのおきものにはいりこんで泥棒退治にくわわったり、
カラスに協力してもらい、佐知のまわりにあらわれたりと
めちゃくちゃな展開に突入する。
三浦しをんさんが、その気になってあそびだしたら、
こんなにも ものがたりが「都合よく」うごきだす。
ありえなさを ちからずくでおさえこむのがしおん流だ。
鶴代と佐知とのかみあわない会話など、ほんとにうまい。
たしかに本書は、小説って、こんなに自由でいいんだ、と
「文章が楽しく書けるようになる」お手本かもしれない。
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