(津村記久子・講談社文庫)
会社にはいやな上司がいて、ろくでもない仕事をまわされるけど、
まわりにはすこしわかってくれる同僚がいないわけではない。
そんななかで、主人公は筋をとおしていくし、
さいごにはちゃんと生きてきたことがむくわれて
おちつくところにおさまっていく。
みたいな状況が津村さんの仕事小説にはおおく、
会社あるあるの不条理のなかで 生きていくノウハウにみちている。
「カソウスキ」なんていわれると、
ロシア系の外国人がでてくるのかとおもうけど、
カソウスキは「仮想好き」のことだ。
課長にセクハラされたと後輩に相談され、
そのまま部長にうったえたら、
それはかんちがいです、と後輩にハシゴをはずされ、
イリエは郊外の倉庫へ左遷させられてしまう。
同期入社で経理の山野が、その後輩の、自慢はしたいんだけどもそえはできなんだけどもやっぱり言いたーい、みたいな女の子心をわかんなかったあんたの負け、と言っていた。
本社では主任のように女性社員をまとめていたのに、
左遷さきの倉庫は、2歳したである 男性職員のもとでの雑用で、
自分がいたポジションには、
セクハラの相談にのった後輩がおさまっている。
勤務中に、ごくたまにそのことを思い出すと、雄叫びを上げながら、座っている椅子を窓から投げたくなる。
それはなんとかおさえ、
でも、だれかと恋愛でもしないとやってられない気分だ。
倉庫勤務では、恋愛の対象となる男はいない。
だったら、仮想でだれかをすきになってみるか。
同僚の森川を、すきになったつもり、になると、
ほんとにすきにはならないものの、
森川のいいところがだんだんわかってくる。
すこしずつ自分の居場所がととのうのを
津村さんはじょうずにえがく。
津村さんの小説にでてくるひとは、おとなだ。
おとなだから、無責任になげださないで、
いやなことでもなんとかつづけ、
さいごには筋をとおしたことがむくわれる。
福引券で、4泊5日のフィンランド旅行があたったのに、
自分にいいことがあると、危篤状態になる森川のおばあさんに
わるいことがおこるかも、とイリエはあたり券をことわってしまう。
そこらへんの、わけがわからない義理がたさも、
津村さんの小説ではおなじみだ。
なんだかんだあって、イリエは本社にもどり、
以前のポジションではたらいている。
倉庫は閉鎖され、森川はべつの会社にひきぬかれて、
いまでは中国の雲南省に配属されている。
パンダはいないけど、ちかくの山にレッサーパンダはいるそうだ。
このまえは、運のいいことに、2本足でたっているところをみかけた、
と森川からメールがくる。
それはわたしがフィンランド旅行をふいにしたからです。
キーボードに手を置いてそう打ちかけたが、説明がめんどうになってやめた。
津村さんらしいオチがいいかんじだ。
本書には、「カソウスキの行方」のほかに、
2編がおさめられている。
どちらも津村さんらしく、ベタベタせずに、
でもわるくないつながりがえがかれていて、
わたしがすきな小説だ。
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