2021年02月12日

『ゲンロン戦記』(東浩紀)

『ゲンロン戦記』
(東浩紀・中公新書ラクレ)

わたしはゲンロンも東浩紀さんもしらなかったけど、
はじめからおわりまで、興味ぶかくよめた。
本の帯や表紙には、
・「知の観客」をつくる
・自らの失敗を通して伝えたい大切なこと
とかいてあり、よみおえてみると、
まさにそのとおりの内容なのだ。

東さんは「ゲンロン」という会社をたちあげて
ネットをつかったビジネスにとりくむ。
ゲンロンをはじめるまえから
東さんはいろいろな活動で名がしられていた。
しかし、有名人である東さんがつくった会社だからといって、
ゲンロンのとりくむ事業がスムーズにすすんだわけではない。
お金をつかいこまれたり、資金が底をついたり、
中心となって会社をしきっていた社員にやめられたりと、
いくつもの倒産の危機にみまわれている。

ネットをつかった会社というイメージから、
アイデアがすべて、みたいにおもっていたけど、
東さんは経理こそ経営者が把握しておかなければならない、
いちばん大切なこと、となんどもかいている。
請求書や領収書を紙にはりつけ、帳簿をととのえること。
自分はそうした経理にかかわりたくないと、
ひとまかせにしたツケで、東さんはなんどもいたい目にあい、
それでもこりずにおなじ失敗をまたくりかえし、と
うまくいかなかったことを かくさずにつたえている。

東さんはチェルノブイリ原発と周辺の町を取材して、
「チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド」
を出版し、のちにはツアーもくんで現地をおとずれている。
チェルノブイリ原発へ観光にいくなんて、
いかにもキワモノ企画におもわれるけど、
じっさいに現地へゆき、原発を見学したり、
土地のひとにはなしをきくと、
イメージしていた「チェルノブイリ」とは
まるでちがう体験をえる旅となる。
表紙にあった「知の観客」とは、観光客のことでもある。
観光地の情報はオンラインで簡単に手に入ります。風景や建物の写真は検索すればたいていのものは出てきます。それはいまやチェルノブイリでも同じです。(中略)「オンライン観光」といった言葉も生まれています。
 けれども、それはやはり観光ではないのです。(中略)旅の価値のかなりの部分は、目的地に到着するまでのいっけん無駄な時間にあります。そのときにこそひとは普段とはちがうことを考えますし、思いがけぬひとやものに出会います。そのような体験こそ「誤配」です。ゲンロンは、その無駄にこそ価値があると言ってきたわけです。

本の内容を、これまた帯から引用すると、
「数」の論理と資本主義が支配する残酷な世界で、人間が自由であることは可能か?

と、すごくむつかしいテーマがかかげられている。
ふつうにかかれたら、わたしはすぐにお手あげだろうけど、
東さんと、きき手である石戸さんが、
わかりやすく表現することにとても気をくばわれており、
哲学なんてとんでもない、というわたしにもスラスラとよめる。
ゲンロンがなにをめざしてきたかがよく整理され、
よくできたノンフェクションをよんでいるここちよさがあった。

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posted by カルピス at 17:44 | Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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