2021年06月18日

『ナオミとカナコ』(奥田英朗)第一級のエンタメ小説

『ナオミとカナコ』(奥田英朗・幻冬舎文庫)

(ネタバレあり)
ナオミは、大学時代からの親友であるカナコが
夫からひどいDVをうけていることをしる。
ナオミは病院や警察へいくようカナコを説得するが、
カナコは夫の暴力におびえ、精神的にも支配下におかれている。
離婚をすすめても、夫への恐怖心から、冷静にかんがえられない。
精神的にも、完全に夫の支配下におかれてしまっている。
ナオミはおさないころ、父親が母親に暴力をふるうのをみてそだち、
父親の暴力が、どれだけ自分と姉を不幸にしたかをおもいだす。
このままカナコをほっておいたら、
夫の奴隷のような生活がつづくだろう。
夫の暴力がさらにエスカレートし、カナコは死んでしまうかも。
かといって、夫からにげることも、
たちむかうことも カナコにはできそうにない。
ナオミは、カナコの夫をころすしかないと判断する。
カナコにそのことをはなすと、あんがいすんなりとうけいれた。
夫の暴力はとまらず、それしかないと、
カナコ自身もおもっていたふしがある。

ナオミは、仕事ちゅうにたまたまみかけた中国人男性が、
カナコの夫と 非常によくにていることにおどろく。
ナオミは、この中国人をトリックにつかい、
カナコの夫が中国へ旅だつシナリオをおもいつく。
自分たちふたりでカナコの夫をころし、山のなかにうめる。
死体がみつからなければ、犯罪がばれることはない。

計画の時点では、非のうちどころのないトリックにおもえたものの、
じっさいにカナコの夫をころしてからは、
つぎつぎとおもわぬ事態がひきおこされる。
つとめさきである銀行や警察からの捜査をうけると、
完璧だとおもっていた犯行には、いくつもほころびがでてきた。
本書の前半は、犯行を計画し、実行するまで、
後半は、じわじわと捜査がすすみ、
ふたりがおいつめられていく過程がえがかれる。

圧巻は、すべてがばれて、警察に任意同行をもとめられてからだ。
証拠となる写真をいくつもおさえられているのに、
カナコは「しりません」でおしとおす。
まだ立件されてないので、警察は強引なことができないだろうと、
つぎの日に中国への逃亡をこころみる。
無事にイミグレーションをとおり、
ナオミとカナコはだきあってよろこぶのだけど、
中国へにげたからといって、
おちついてくらせるわけではないだろう。
それでも、まずはめでたしめでたしでおわり、
よんでいるわたしたちの気分に よりそってくれる。

10年以上まえ、奥田英朗さんの小説を、よみあさっていた時期がある。
『ララピポ』『サウスバウンド』がわたしのこのみで、
奥田さんはダメ男小説が得意ともいえるかもしrない。
精神科医の伊良部先生シリーズもおもしろかった。
長編・短編の、どちらもうまさはおりがみつきだ。
『ナオミとカナコ』は、質のたかいエンタメ小説で、
ハラハラドキドキがおわりまでつづく。
つぎになにがおこるのか たのしみで、
580ページあるのにスルスルと3日でよめた。
覚悟をきめたふたりが、全力をつくして計画をねり、
実行し、逃亡するまでの展開がリアルで、さいごまで気をぬけない。
よみおえたあとの爽快感も保証します。

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posted by カルピス at 18:24 | Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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