レイフ=GW=ペーション・久山葉子:訳
創元推理文庫
せんじつよんだおなじベックストレームものの
『平凡すぎる犠牲者』が かわったおもしろさだったので
(主人公の警部が偏見にみちた ろくでもない人物)、
シリーズの第1作である本書を手にいれる。
タイトルにあるように、警察学校の女子学生がころされる。
たまたま派遣されたのがベックストレームと
彼がえらんだメンバーによる捜査チームだ。
例によって、ベックストレームのやることは
マトをはずしており、捜査はいっこうにすすまない。
すくいとなるのは『許されざる者』で知的な捜査を展開し、
読者からあつい信頼をあつめるヨハンソンが、
後半からベックストレームの上司として登場するところ。
ベックストレームが自分の家にためこんでいた大量の洗濯物を
捜査の必要経費としてホテルのクリーニングにだしたり、
ホテルのバーでしこたま酒をのんだり、
ひとの部屋でひとばんじゅうポルノをみたりしたのを、
適正に処理し、ベックストレームをとがめ、読者は溜飲をさげる。
もうすこしで、ヨハンソンが派遣したべつの警部(2人の女性)が
事件をかいけつするところだったのに、
ベックストレームの同僚のはたらきにより、犯人が逮捕される。
ベックストレームは、もちろん自分が解決したつもりだ。
あまりにも不愉快な男なので、
「ベックストレーム・シリーズ」なんてかきたくないけど、
訳者の久山葉子さんはペーションの作品群をいくつかにわけ、
「チビでデブで無能な捜査官ベックストレーム・シリーズ」
と、ひとつのジャンルにくくっている。
「チビでデブで無能」。すごい。
書評家の杉江松恋さんによると、『許されざる者』のなかに
いい加減な捜査をして事件を迷宮入りさせた主犯としてベックストレームへの言及があるそうだ。
https://www.webdoku.jp/newshz/sugie/2021/02/12/113400.html
著者のペーションは、ヨハンソン・シリーズの初期から
ベックストレームを登場させており、
なぜかあたらしいシリーズの主人公に、
ヨハンソンと正反対の警察官、ベックストレームをもってきた。
『見習い警官殺し』では、まだベックストレームのなまけぶりは
本格的にはかたられないし、ヨハンソンがにらみをきかせているので、
ベックストレームのすきほうだい、というわけにはいかない。
『平凡すぎる犠牲者』になると、問題ありありの勤務態度となり、
これははたしてミステリーなのかと不思議におもえてくる。
それでもよんでしまうのだから、作者のねらいどうりなのだろう。
久山葉子さんの訳が こなれていてすばらしい。
「訳者あとがき」では、作品の背景についてかんたんにふれてある。
本作『見習い警官殺し』は、スェーデンの真夏の話。と書くと、北欧ミステリ好きの方々はすでに展開がよめたかもしれない。バカンス時期につき、ストックホルム警察本部にある国家犯罪捜査局でも、まともな警官たちは皆休暇に入ってしまっているのだ。
ベックストレームの登場は、あるていど必然だったのかもしれない。
あつさについての記述がいくつかあるものの、
日本にくらべたらスウェーデンの夏なんて、かわいいものだろう。
禁酒ちゅうのわたしは、ベックストレームがしょっちゅうのんでいる
つめたいピルスナーにいらつきながらも たのしくよんだ。
本書のエンディングはかわっている。
事件の解決にくわわったリサ=マッテイの博士号論文
「被害者の思い出?」についてふれ、
ここ50年の間に200人近くの女性たちが自らのファーストネームを自分が殺された強姦殺人事件の接頭辞にされたという特筆すべき関係性にも言及した。(中略)男性の怠けが殺人事件の接頭辞として使われることはありえない。
さいごにリサはパソコンにうちこむ。
でもわたし自信はリサよ。リサ・マッテイのリサ、リサ・マッテイはそう思いながら、パソコンの最後のキーを叩いた。32歳、女性、警部補、そして間もなく哲学博士。
すてきなリズムだ。
つぎの一冊、ねがわくばベックストレームがでてこない
ヨハンソンものをはやくよみたい。
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