2023年12月03日

『じい散歩』(藤野千夜・双葉文庫)理想的な老後の姿

『じい散歩』(藤野千夜・双葉文庫)

89歳の新平は、ひとつ年下の妻、英子とくらしている。
むすこが3人いるけど、3人とも独身のままだ。
長男はわかいころからひきこもり、家からでないし、
三男はおおくの借金をかかえてるくせに、
調子だけはいいダメ男で、いつも新平に無心してくる。
次男は、しっかりしてはいるものの、同性愛者で、
新平の家にあとつぎができるみこみはない。

新平は朝おきると、45分ほど自己流の体操をする。
からだによさそうなうごきをあれこれつぎたしていくうちに、
45分ものながさになったという。
体操がおわると、きなこやらヨーグルトをまぜた朝ごはんをとる。
朝ごはんで必要な栄養をとっておけば、
あとはすきなものをたべてもいい、という
ながいあいだに新平がたどりついた健康法だ。
あまいものをたくさんたべながらも、
いまのところなにも病気をかかえずにすごせている。

ひるまえになると、新平は散歩にでかける。
建築に興味があるので、その日ごとにたずねる場所をきめ、
からだの調子にあわせてながい距離をあるく。
お店での昼ごはんもふくめ、4時間ほどのおでかけだ。

『じい散歩』は、新平のいまのくらしを紹介しながらも、
英子とのであいや、仕事をはじめた わかいころのはなしをまじえ、
とくになにか事件がおこるでもない日常を淡々とかたる。
「老い」に適当なモデルがみつからないなかで、
新平のスタイルは、わたしも こうありたいという理想にうつる。
むすこたちにあまいようでいながら、さいごの一線はくずさない。
いうべきこと、やるべきことをわきまえたうえで、
家族やまわりのひとたちに おどろくほど寛容にせっしている。
運動でからだをよくうごかし、すきなものをたべ、
たっぷりと散歩をしながら社会のうつりかわりに目をこらす。

いくら健康に気づかっていても、いつかは死ぬときがくる。
あたりまえなその事実をうけいれたうえで、
いちにちいちにちをなんとか生きていくしかない。
新平は、脳梗塞にたおれた妻に、さいごまでつきそうときめ、
「そこまでがわたしの人生の仕事、と覚悟して」いる。
自分に介護が必要になれば、全財産を処分して施設にはいる。
むすこたちがこまっても、それはしかたのないこと。
わたしも新平のように、たくさんからだをうごかし、
やるべきことへの覚悟をきめて、淡々と生きていきたい。

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posted by カルピス at 10:46 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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