2024年04月14日

成瀬が本屋大賞を受賞する

成瀬が本屋大賞を受賞する。
もちろんただしくは単行本としての
『成瀬は天下を取りにいく』が受賞したのだけど、
成瀬ファンにとっては、じっさいに存在する成瀬が
賞をうけたようにおもえる。

本屋さんへいくと、本屋大賞関連の棚がもうけられ、
成瀬の2冊が山づみになっている。
まえの記事にもかいたけれど、
ざしきわらしさんの挿画がすばらしい。
本のうれゆきのいくらかは、表紙の効果なのでは。
『成天」のとき、成瀬はまだ中学2年生だ。
鼻に手をあて、キリッと前をみる成瀬のまなざしは、
すこし狂気をかんじさせる。
好奇心だけでは一夏を西武百貨店にささげられない。
いっぽう『成信』の成瀬は、おちつきはらい、
すずしげな目をしている。

成瀬あかりは、自分が本屋大賞を受賞したことについて、
どんなコメントをのこすだろう。
関係者の協力に感謝するか、
それともまったく意にかんせずの態度をとるか。
この受賞で、おおはばに増販がかさねられ、
さらに成瀬ファンがふえていくにちがいない。
わたしから、とおい存在になっていきそうで、
すこしさみしい気もする。

posted by カルピス at 19:58 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年03月20日

『成瀬は信じた道をいく』宮島未奈・新潮社

『成瀬は信じた道をいく』
宮島未奈・新潮社

成瀬あかりがかえってきた。
一冊目の『成瀬は天下を取りにいく』(新潮文庫)をよみ、
すっかりわたしは成瀬ファンになった。
http://parupisupipi.seesaa.net/article/502730811.html
「WEB本の雑誌」に「成瀬」の作者、
宮島未奈さんへのインタビューがのっている。
https://www.webdoku.jp/rensai/sakka/michi261_miyajima/
成瀬がかかれた背景がよくわかるけど、
成瀬の存在があまりにもリアリティがあったので、
わたしはほんとうに成瀬がいるような気がしていた。
このインタビューをよむと、あたりまえなこと、
つまり、宮島さんが成瀬をかいたんのであり、
成瀬あかりは実在しないという事実をつきつけられ、
かえってがっかりした。

2冊目の「成信」(「なるしん」と宮島さんがいっていた)も、
1冊目とおなじようにじゅうぶんおもしろい。
表紙をかざる ざしきわらし氏の絵が、
おとなへ成長しつつある成瀬あかりをよくあらわしている。
1冊目の絵だって、いかにも成瀬らしいけど、
狂信的にみえる目のちからがすこしおっかない。
『成瀬は天下を取りにいく』は、
本屋大賞にもノミネートされた。
成瀬の魅力にまいったひとはおおいだろうから、
大賞を受賞する可能性はじゅうぶんにある。

posted by カルピス at 20:15 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年03月10日

ザリガニの鳴くところ

『ザリガニの鳴くところ』
(ディーリア=オーエンズ・友廣純:訳・ハヤカワ文庫)

1950〜60年代の、ノース=カロライナ州にある湿地帯が舞台。
暴力をふるう父親が原因となり、母親・4人の兄弟、
そしてさいごには父親自身も家をでてゆく。
のこされた6歳の少女カイアは、ひとりで生きなければならなかった。
クツがないのではだしであるきまわり、家にはたべものもない。
唯一の理解者であるジャンピンに、湿地でとった貝を
彼のお店で食糧や必需品と交換してもらう。
給食につられ、学校へもいってみるが、ほかの子どもたちの
からかいに我慢できず、いちにちでやめてしまった。
そんなカイアが、どうやって生きのびるかにわたしは胸をあつくする。
湿地でのくらしはきびしく、孤独ではあるものの、
動植物のいきいきとしたようすが カイアのこころをささえる。
鳥や貝、虫や草花とともにカイアは生きて、
彼女はしだいにすぐれた自然観察者としての感性をそなえてゆく。

湿地でおきた殺人事件にカイアがまきこまれる。
カイアは湿地でくらす異端者として差別されており、
まわりからの偏見が彼女の立場をあやうくしていく。
ものがたりの後半は、法廷ものとしても興味ぶかい。
はたして彼女は事件にかかわりがあったのか。

この本をよみおえると、わたしはふかい満足感にひたった。
これだけの作品にであえたよろこび。
600ページを3日間でよみおえる。
わたしは本をよんでいるあいだ ずっとカイアによりそい、
彼女の目をとおして湿地のゆたかな自然をおもう。
動植物の生態には、かならずなんらかの理由があり、
人間のおこないもまた、種の保存という法則から説明がつく。
カイアはホタルのようにオスをさそいこみ、引導をわたす。

本があまりにもすばらしかったので、
ちょうどアマゾンプライムの対象だったこともあり、
映画化された作品もみた。
がんばって、なんとかまとめてはあるものの、
原作のよさをじゅうぶんに再現したとはいいにくい。
湿地のうつくしさ、カイアの孤独が、
あまりつたわってこなかった。

posted by カルピス at 14:57 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年12月16日

本の雑誌のベスト10に『成瀬は天下を取りにいく』がえらばれなかった

毎年たのしみにしている『本の雑誌 1月号』による今年のベスト10。
今年わたしがもっともひかれた『成瀬は天下を取りにいく』
(宮島未奈)はどう評価されただろうか。
でも、ベスト10に『成瀬』の書名はあがっていない。
ベスト10どころか、「本の雑誌社」社員による座談会で、
だれひとり『成瀬』をおしてくれるひとがいなかった。
かろうじて、エンターテイメント部門の10位に
久田かおりさんがとりあげてくれている。
10位ではあるものの、久田さんは
2023年最大の収穫は『成瀬は天下を取りにいく』だった。「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようとおもう」なんて宣言をする風変わりで突拍子もない主人公、成瀬あかりに心からまいってしまった。
と絶賛している。
エンターテイメント部門は、これまで北上次郎さんがうけもっていた。
今年なくなった北上さんのかわりという重圧のなか、
久田さんはみごとに大役をはたした。
『成瀬』だけでなく、久田さんのコメントをよむと、
ベスト10にあげられた本はどれもおもしろそうだ。
こんなにいい本がどっさりあるのだから、
いつまでも会社づとめなんてしてないで、
さっさと老後の生活を実現させなければ、なんておもわせるほど。

うれしいしらせもあった。
来年の1月に『成瀬』の続編が発行されれるという。
成瀬ロスでおちつかなかったおおくのファンが
成瀬との再会に胸をあつくすることだろう。
そして『成瀬』の魅力がただしく評価され、
来年こそはノンジャンルベスト10にえらばれるようねがっている。

posted by カルピス at 18:03 | Comment(1) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年12月03日

『じい散歩』(藤野千夜・双葉文庫)理想的な老後の姿

『じい散歩』(藤野千夜・双葉文庫)

89歳の新平は、ひとつ年下の妻、英子とくらしている。
むすこが3人いるけど、3人とも独身のままだ。
長男はわかいころからひきこもり、家からでないし、
三男はおおくの借金をかかえてるくせに、
調子だけはいいダメ男で、いつも新平に無心してくる。
次男は、しっかりしてはいるものの、同性愛者で、
新平の家にあとつぎができるみこみはない。

新平は朝おきると、45分ほど自己流の体操をする。
からだによさそうなうごきをあれこれつぎたしていくうちに、
45分ものながさになったという。
体操がおわると、きなこやらヨーグルトをまぜた朝ごはんをとる。
朝ごはんで必要な栄養をとっておけば、
あとはすきなものをたべてもいい、という
ながいあいだに新平がたどりついた健康法だ。
あまいものをたくさんたべながらも、
いまのところなにも病気をかかえずにすごせている。

ひるまえになると、新平は散歩にでかける。
建築に興味があるので、その日ごとにたずねる場所をきめ、
からだの調子にあわせてながい距離をあるく。
お店での昼ごはんもふくめ、4時間ほどのおでかけだ。

『じい散歩』は、新平のいまのくらしを紹介しながらも、
英子とのであいや、仕事をはじめた わかいころのはなしをまじえ、
とくになにか事件がおこるでもない日常を淡々とかたる。
「老い」に適当なモデルがみつからないなかで、
新平のスタイルは、わたしも こうありたいという理想にうつる。
むすこたちにあまいようでいながら、さいごの一線はくずさない。
いうべきこと、やるべきことをわきまえたうえで、
家族やまわりのひとたちに おどろくほど寛容にせっしている。
運動でからだをよくうごかし、すきなものをたべ、
たっぷりと散歩をしながら社会のうつりかわりに目をこらす。

いくら健康に気づかっていても、いつかは死ぬときがくる。
あたりまえなその事実をうけいれたうえで、
いちにちいちにちをなんとか生きていくしかない。
新平は、脳梗塞にたおれた妻に、さいごまでつきそうときめ、
「そこまでがわたしの人生の仕事、と覚悟して」いる。
自分に介護が必要になれば、全財産を処分して施設にはいる。
むすこたちがこまっても、それはしかたのないこと。
わたしも新平のように、たくさんからだをうごかし、
やるべきことへの覚悟をきめて、淡々と生きていきたい。

posted by カルピス at 10:46 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする