2024年08月04日

『カラハリが呼んでいる』人間は、どしがたい

『カラハリが呼んでいる』
マーク=オーエンズ&ディーリア=オーエンズ
小野さやか・伊藤紀子:訳
ハヤカワ・ノンフィクション文庫

野生動物の研究家であるオーエンズ夫妻は、
まだ人間と接触したことのない動物をもとめ、
ボツワナ共和国のカラハリ砂漠にたどりついた。
これまでに人間をみたことがない動物たちは、
ひとをおそれる遺伝子をもっていない。
動物たちのくらしをすぐちかくで観察できるし、
たとえライオンでも、ひとをおそってくることはない。
オーエンズ夫妻は、不用意に干渉しないよう
注意ぶかく観察をつづけ、
これまでしられなかったライオンやハイエナの生態を
いくつもあきらかにしていく。
この本は、1974年から7年をかけておこなわれた
彼らの観察の記録である。

この記事のタイトルを「人間は、どしがたい」としたのは、
ひとがいかにすくいがたい存在かを、おもいしらされるからだ。
オーエンズ夫妻と、とくにしたしい関係にあった
オスライオンのボーンズを、
アメリカ人のハンターがうちころしてしまう場面がある。
まえの日に、夫妻からボーンズの生態をきき、
目になみだをうかべて感激していたハンターは、
あろうことかそのボーンズをうちころしてしまった。
ひとをおそれないボーンズしとめるのは、
どんなにたやすいことだったろう。
ボーンズ、そしてオーエンズ夫妻の無念をおもうと、
人間はどしがたい、としかいいようがない。

また、カラハリ砂漠の自然保護区では
何万頭ものヌーの大移動が観察されている。
水をもとめ、ながい旅をつづけるヌーは
もうすこしで水場にたどりつく、というところで、
針金をはられた柵にぶちあたる。
人間が家畜として世話をしている動物に、
野生動物の病気がうつらないよう隔離する柵だ。
この柵が、たしかに有効という事実はないのに、
柵のためにおおくのヌーがちからつき、たおれていく。
柵の犠牲になったヌーの死期はごくゆっくりとやってくる。まだ前足で砂をかく力の残っている、横たわった彼らからカラスやハゲワシは容赦なく目をくりぬいていき、屍肉食者たちはまた、耳や尾や睾丸などを髪切っていく。こうして2、3000頭のヌーが柵ぞいで死んでいった。

まったく、人間はどしがたい。
この地球から、人間などいなくなったほうがいいと、
どれだけおもったことか。
この本の、とくに後半は、どしがたい人間の記録ともいえ、
わたしは胸がふさがれるおもいでよみすすすめた。

ながい時間をかけ、カラハリ砂漠の過酷な自然に適応してきた
動物たちの生態は、おどろくことばかりだ。
カラハリ砂漠は砂漠なので、もともと雨はすくないが、
ときには何年も雨がふらないときもある。
そんな環境でも、一滴の水ものまないで
動物たちは生きぬくちからを身につけてきた。
必死に生き、子どもをそだてるライオンや
カッショクハイエナは、どこまでもけなげだ。
ふかい愛情と、正確な記録でこの本をかきあげた
オーエンズ夫妻にふかく感謝したい。

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2024年07月21日

『百年の孤独』(ガブリエル=ガルシア=マルケス)

『百年の孤独』ガブリエル=ガルシア=マルケス
鼓直(つづみただし):訳・新潮文庫

有名な本なので、タイトルは20代のころからしっていた。
じっさいによんだひとの感想をきいたことはなく、
南米の作家はなんとなく距離をかんじてしまい、
手にとることのないまま40年がすぎた。
ただ、『カラマーゾフの兄弟』とおなじように、
必読書として、いつかよみたいとおもっていた。
その本がやっと文庫になるという。
この機会に、ノルマをこなしておこうか。
本屋さんにいくと、平台に数冊がそっとおいてあった。
それほど宣伝にちからをいれているふうではない。
どんなうれゆきなのか、気になるところだ。

南米にあるマコンドというちいさな村を舞台に、
ブエンディア家の100年がえがかれている。
660ページと、すこしながいとはいえ、
ミステリーではあたりまえのボリュームなのに、
なかなか読書がはかどらない。
二週間ほどかけてようやくよみおえた。
けしておもしろくないわけではなけど、
なにしろ、おなじような名前がなんどもでてくるのだ。
登場人物のエネルギーと性欲がものすごく、
かんたんにちかしい家系のひととねてしまい、
できた子どもにアルカディオとかアウレリャノとか、
にたような名前をつけていく。
家系図がついているけど、名前がおなじだったり、
よくにてたりして、だれがだれなのかすぐわからなくなる。
なんど家系図をふりかえり、たしかめたことだろう。

たしかにわたしは『百年の孤独』をよみおえた。
ただ、どれだけこの本の魅力にひたれたかは
はなはだこころもとない。
南米特有の情念のすごさに圧倒された読書だった。

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2024年06月23日

新潮社は奥づけを西暦表示に

『ガラスの街』(ポール=オースター・柴田元幸:訳)をよみおえる。
「よんだ」記録として、Scraobox(現Cosense)に奥づけをかきこむ。
奥づけをかきうつすようになったのは、
梅棹忠夫さんの『知的生産の技術』におしえられた習慣だ。
梅棹さんは、本をよみおえると、
「著者名、署名、発行年月、出版社、ページ数などを型どおりに記入」
されている。
かきこむのは、もちろん京大型カードをつかわれている。
発行年月や出版社は、最終ページの奥づけをみればいい。
一冊の本をぜんぶよみおえ、奥づけをかきうつすのは、
ひとつの仕事をおえたようで、ささやかな快感がある。

『ガラスの街』は新潮社から出版されており、
問題は、新潮社が、なぜか発行年月に元号をつかっている点にある。
わたしがよんだ『ガラスの街』は、
平成二十五年九月一日発行
令和四年十一月十五日七刷
とある。
年号のままでは、ほかの本の記録と情報がそろわないので、
早見表を参考に、平成と令和の年月を、
それぞれ西暦になおさなければならない。
まったくよけいなひと手間だ。
昭和・平成・令和と、3つの年号をまたぐ本だってあるだろうに、
西暦をつかわないことで、いったいどんなメリットがあるのだろう。

posted by カルピス at 09:43 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年04月14日

成瀬が本屋大賞を受賞する

成瀬が本屋大賞を受賞する。
もちろんただしくは単行本としての
『成瀬は天下を取りにいく』が受賞したのだけど、
成瀬ファンにとっては、じっさいに存在する成瀬が
賞をうけたようにおもえる。

本屋さんへいくと、本屋大賞関連の棚がもうけられ、
成瀬の2冊が山づみになっている。
まえの記事にもかいたけれど、
ざしきわらしさんの挿画がすばらしい。
本のうれゆきのいくらかは、表紙の効果なのでは。
『成天」のとき、成瀬はまだ中学2年生だ。
鼻に手をあて、キリッと前をみる成瀬のまなざしは、
すこし狂気をかんじさせる。
好奇心だけでは一夏を西武百貨店にささげられない。
いっぽう『成信』の成瀬は、おちつきはらい、
すずしげな目をしている。

成瀬あかりは、自分が本屋大賞を受賞したことについて、
どんなコメントをのこすだろう。
関係者の協力に感謝するか、
それともまったく意にかんせずの態度をとるか。
この受賞で、おおはばに増販がかさねられ、
さらに成瀬ファンがふえていくにちがいない。
わたしから、とおい存在になっていきそうで、
すこしさみしい気もする。

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2024年03月20日

『成瀬は信じた道をいく』宮島未奈・新潮社

『成瀬は信じた道をいく』
宮島未奈・新潮社

成瀬あかりがかえってきた。
一冊目の『成瀬は天下を取りにいく』(新潮文庫)をよみ、
すっかりわたしは成瀬ファンになった。
http://parupisupipi.seesaa.net/article/502730811.html
「WEB本の雑誌」に「成瀬」の作者、
宮島未奈さんへのインタビューがのっている。
https://www.webdoku.jp/rensai/sakka/michi261_miyajima/
成瀬がかかれた背景がよくわかるけど、
成瀬の存在があまりにもリアリティがあったので、
わたしはほんとうに成瀬がいるような気がしていた。
このインタビューをよむと、あたりまえなこと、
つまり、宮島さんが成瀬をかいたんのであり、
成瀬あかりは実在しないという事実をつきつけられ、
かえってがっかりした。

2冊目の「成信」(「なるしん」と宮島さんがいっていた)も、
1冊目とおなじようにじゅうぶんおもしろい。
表紙をかざる ざしきわらし氏の絵が、
おとなへ成長しつつある成瀬あかりをよくあらわしている。
1冊目の絵だって、いかにも成瀬らしいけど、
狂信的にみえる目のちからがすこしおっかない。
『成瀬は天下を取りにいく』は、
本屋大賞にもノミネートされた。
成瀬の魅力にまいったひとはおおいだろうから、
大賞を受賞する可能性はじゅうぶんにある。

posted by カルピス at 20:15 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする