2018年08月06日

村上春樹さんによる「村上RADIO」

とうとう「村上レディオ」が放送された。
村上春樹さんが、ランニングと音楽をテーマに
ラジオ番組の司会者をつとめるという。
TOKYO FMで夜7時から放送するとしり、
しばらくまえからたのしみにしていた。
村上さんの声は たしかまだきいたことがない。
それに、音楽ずきな村上さんが、
どんな曲をえらぶのか興味があった。
番組でながされた数曲は、有名ではあっても
どれもすこしひねってある。
なぜえらんだかを説明する村上さんは、
それがクセなのか、はなしのさいごでクスッとわらう。
あんがい てれているのかもしれない。

ランニングと文章についてのはなしは、
村上ファンにとってとくにめあたらしい情報はない。
「下半身がしっかりすると上半身がやわらかくなる。
 そうすると、文章がよくなる」
小説家は体力がたいせつなのだと
いつものように強調していた。

視聴者からの質問にこたえるコーナーもあった。
「音楽なしか、ネコなしかをえらぶとしたらどっち?」
という、そんなことをきいてどうするんだ、
みたいな質問にたいし村上さんは、
そういう二者択一にはこたえないようにしているとはなす。
どちらかをもしこたえて、
それがほんとうになったらいやだから、
というのが理由らしい。

村上さんの声は、想像していたよりもかしこそうだった。
もうすこしぬけたひとのしゃべりを予想していたら、
なれたDJみたいにスラスラとはなされる。
おしゃべりが音楽のじゃまにならず、
リラックスしてきいていると、ここちいい。
真剣に耳をかたむけたり、
メモをとったりする番組とはちがうのだ。
おしゃべりの内容がつまらないわけではなく、
音楽をメインにした番組と とらえれば、
これぐらい人畜無害なはなしがちょうどいい。
毎週でもこの番組をききたいとおもった。

番組のさいごに、おもっていたよりたのしかったので、
また機会があれば、みたいなはなしがあった。
月にいちどくらいのペースでもいいから
これからもつづけてもらいたい。

posted by カルピス at 21:27 | Comment(0) | 村上春樹 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月03日

村上作品におけるアイロンがけの工程

イナモト氏のブログにのった
「アイロンがけの楽しみ」がおかしかった。
http://yinamoto.hatenablog.com/entry/2017/10/01/130820
イナモト氏は村上春樹さんの小説がにが手で、
なにが「僕がアイロンをかける工程は・・・」だ、と
やつあたりしておきながら、
そのアイロンがけがすきになってしまったと告白する。
しかも工程にそって仕事をすすめるというのだから
まさに村上式のアイロンがけだ。

わたしは、料理はするけど、アイロンがけをたのしむ素養はない。
おりめのついた服はきゅうくつだし、
スーツをきる機会など、いちねんにいちど
あるかないかなので、ワイシャツはぜんぶクリーニング店にまかせ、
自分でアイロンをかけたことがない。
もし、いくつかの工程にわけ、分業のように
手順をきめて仕事をすすめたら、
集中した たのしい時間になりそうだ。
とはいえ、村上さんの作品にかかれている
アイロンがけの工程をたどれば、
じょうずにアイロンがあてられるかというと、
きっとそこまで親切にはかかれていないような気がする。

このまえよんだ村上春樹さんの『騎士団長殺し』には、
面色さんがつくってくれた完璧なオムレツが登場する。
オムレツのつくりかたがかなりくわしくのべられているけど、
それにもかかわらず、フライパンにタマゴをいれてからの
だいじなポイントがはぶかれていて、
この本を参考にするだけでは みごとなオムレツにしあがらない。
また、一般的には氷をいれないシングルモルト・ウイスキーを、
あえてオン・ザ・ロックでのんだり、
そうかとおもえばスコッチを氷なしで、
チェイサーにミネラルウォターをたのむとか、
なにかのメッセージがこめられている場面がいくつかある。
わたしには村上さんの意図をよみとれず、
なぜシングルモルトに氷をいれるのかにひっかかったままだ。

『騎士団長殺し』には、村上さんの作品らしく、
もちろんアイロンをかける場面が登場する、と
断言しようとしたけど、記憶がたしかではない。
アイロンをかけ、スパゲティをゆで、さっと料理をする場面が
ほかの作品と、ごちゃまぜになっているのかもしれない。
そうした日常のひとコマが、こまかくかかれていると、
なんとなく村上作品っぽくなる。
それではあまりにも安直なので、わざとつくり方をぼかして
行間に意味をこめるのが村上作品の特徴となっている。
うんちくをかったりしない。おとし穴をさりげなく配置し、
つくり方はあくまでもかるくながすだけだ。

posted by カルピス at 22:48 | Comment(0) | 村上春樹 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月24日

『ラオスにいったい何があるというんですか?』(村上春樹)

『ラオスにいったい何があるというんですか?』
(村上春樹・文藝春秋)

村上さんが20年のあいだにかいた、いくつかの紀行文をまとめたもの。
この本が出版されたのは2年前だけど、タイトルにひっかかってしまい
これまでほったらかしてきた。
「ラオスにいったい何があるというんですか」って、
ラオスにすごく失礼ないいかたではないか。
でも、よんでみると、
べつにラオスをひくくみているわけではなかった。
これからラオスのルアンプラバンにむかおうとするとき、
のりつぎをしたハノイで、
ベトナムのひとが村上さんにいったことばだ。
なんでもベトナムにあるのだから、
わざわざラオスになんていかなくてもいいのに。
でも、それが旅行というものなのでは。

20年もの期間にわたるのだから、いきさきはあちこちだ。
ボストンやアイルランド、それに日本の熊本もふくめ、
村上さんがたずねた10ヶ所の旅行記がまとめられている。
なかには『遠い太鼓』にでてきたミコノス島とスペッツェス島、
それにトスカーナ地方のように、再訪の記録もあり、
それはそれでなつかしい。
ありきたりないいかただけど、
とりあげられている町にいきたくなるは村上さんのうまさだろう。
なかでも、フィンランドのはなしがいちばんおもしろかった。

ヘルシンキで村上さんは、
カウリスマキ監督の兄弟が経営するバー
「カフェ・モスクワ」をたずねている。
基本的経営方針が「冷たいサービスと、暖かいビール」というから
かなりかわっている。
暗くけばい もろ60年代風の内装から、ジュークボックスの表に貼られた偏執的な選曲リストから、すべてが見事なまでにカウリスマキ趣味で成り立っている。

店にはいり、椅子にすわっても、従業員がだれも注文をききにこない。
店には、カップルの客が一組だけ。
この二人はフィンランド人の三十代初めくらいの男と、エストニア人の二十歳過ぎのちょっと色っぽい女の子のカップルで、かなりダウン・トゥ・アースな、みっちり下心に満ちた、濃い雰囲気を漂わせていた。このへんの客層もいかにもカウリスマキっぽい。本当に「内装の一部」といっても違和感のないようなお二人だった。

村上さんの比喩に いつも関心するけど、
この「内装の一部」もきまっている。
いくらまっても従業員がこないので、
村上さんはけっきょく「暖かいビール」すらのめなかったそうだ。

ボストンでの
そして言うまでもないことだけれど、あなたがボストンに来るなら、新鮮な魚介料理を食べに行くことは、チェックリストのかなり上段に置かれるべき項目になる。

もいい。
翻訳っぽい文章にすることで、
いかにも外国のガイドブックをみている気がしてくる。

そして、タイトルになっている
ラオスのルアンプラバンにはなにがあったのか。
率直にいって、あまり魅力のある記事とはいえなかった
(ホテルできいた民族音楽についてかたるときだけさえている)。
村上さんとアジアは、あまり相性がよくないのかもしれない。

posted by カルピス at 22:11 | Comment(0) | 村上春樹 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月06日

『みみずくは黄昏に飛びたつ』(村上春樹・川上未映子)

『みみずくは黄昏に飛びたつ』(村上春樹/川上未映子・新潮社)

村上作品の熱心なファンである川上未映子さんが、
4回にわたるロングインタビューで村上さんにたずねる。
帯には、「ただのインタビューではあらない」のコピーがあり、
『騎士団長殺し』を中心に、小説家であり、
村上作品のファンである川上未映子さんでなければ
たずねられないような、創作にまつわるはなしがおおい。
引用しだしたらきりがないので、
ここでは かんじたことをすこしだけ。

インタビューの1回目は、文芸誌『MONKEY』に掲載されており、
それが そのまま本書の第1章となっている。
わたしは『MONKEY』により、すでに第1章をよんでいたわけだけど、
かかれている内容を ほとんどわすれていた。
『みみずくは〜』をよみながら、
大切そうなフレーズに えんぴつで線をひく。
あとから『MONKEY』をひっぱりだして、
まったくおなじ ふたつのインタビューをくらべてみると、
さすがといいうか、ほぼおなじようなところに線がひいてあった。
はじめてよむ本として あらたに感心するなんて、
いくら線をひいたって、これではなにもしないのといっしょだ。

ひらきなおってべつのいいかたをすると、このインタビューには、
なんどよんでも感心したくなるおもしろさがつまっている。
「優れたパーカッショニストは、一番大事な音を叩かない」
なんて、もういちどよんでも線をひきそうだ。
村上さんが小説をかくときの、具体的なうごきと気もちのもち方を、
これほどこまかくききだしたインタビューはない。
そして、村上さんの 小説にたいする勤勉さと自信が、
川上さんの質問によりうかびあがる。
これまでわたしは 川上未映子さんの作品をよんだことがないけど、
どんな小説をかくひとなのか、しりたくなった。

posted by カルピス at 22:37 | Comment(0) | 村上春樹 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月24日

『騎士団長殺し』雑感

『騎士団長殺し』(村上春樹・新潮社)をよみおえる。
たいへん興味ぶかい小説であるのはまちがいないとして、
いくつか気になるところがあったので、
よみおえた印象を、ざっとかいておきたい。
ネタバレというか、この本をよんでないひとには、
なんのことかわからない「印象」だけど、
いちどめによんだときにかんじたわたしの率直な感想だ。

・免色さんにたのまれた肖像画は、いくらしはらわれたのだろう。
 依頼したときに500万円、じっさいにふりこまれたのは、
 ボーナスとしてうわのせした600万円というのはどうだろう。
・年上のガールフレンドが、
 免色さんのことをやたらとしりたがるので、
 ゴシップずきな俗物におもえてきた。
 「私」は彼女に、免色さん情報を
 そんなにくわしくかたらなくてもいいのに。
・雑木林にある祠に重機でいれたのは水曜日だけど、
 この日の夕方は絵画教室の仕事があるはずなのに、
 なんの説明もない。
・免色さんが「私」のむかえによこしたインフィニティの運転手は
 「顔色ひとつ変えずに」まがりくねった道を運転したとあるけど、
 「顔色ひとつ変えずに」は、おもしろみのない いいまわしだ。
・秋川まりえの表情について
 「食べかけの皿を途中で持って行かれた猫のような顔つきだった」
 がうまい。
・伊豆の療養所から「私」がぬけだしてからの何章が、
 かなりたいくつだった。
・「私」がのるカローラは、ほこりがつもるほど
 ほったらかしになってる、となんども「埃」がでてくるけど、
 車をただあらわないだけなら そんなにほこりはつもらない。
・イデアとしての「騎士団長」は、
 高橋留美子さんのマンガにでてくる
 カラス天狗をおもいえがくとピッタリだ。
・髪がまっしろ、とかいてあるのに、
 免色さんを俳優の渡辺謙さんにおきかえてしまう。
 はなしかたやしぐさが、いかにも渡辺謙さんだ。
・おわりのほうがかなりしりつぼみにおもえる。
 それまでは、ずいぶんこまかくさまざまな描写があるのに、
 いったん「事件」がかいけつすると、
 バタバタバタっとかたづいてしまった。
・「私」の子が保育園にはいったけど、
 小田原は待機児童問題はないのだろうか。
・「私」は、たずねてくる客を、
 しばしばカーテンのすきまから観察している。
 あまりいい趣味ではないのでは。
・「自分のとった行動が適切なものだったかどうか、
 いまとなっては確信が持てなかった」(第2部P454)
 村上さんの小説に、よくでてくるフレーズだけど、
 確信がもてないことがよくあるのは、
 あたりまえにおもえるけど。
・免色邸にしのびこんだ秋川まりえが、
 「侵入を防ぐための、手に入るすべての防犯手段が用いられている」
 とおもった場面があるけど、
 12歳の女の子になぜそんなことがわかるのか。
・秋川まりえのおばさんの胸について
 「オリーブの種を思わせる叔母さんのそれとは比べようもない」
 とあるのは、種ではなく実ではないのか。
・夕食に、そんなに時間がかかるだろうか?
ブリの粕漬け
漬け物
キュウリとわかめの酢の物
大根と油揚げの味噌汁
米飯
「その簡素なひとりぼっちの夕食を食べ終えかけた頃に」
 秋川まりえがやってくる。(第二部P47)
 「私」はまりえを家にいれ、「最後まで食べちゃっていいかな?」
 とことわってから 「食べ終えかけ」ていた夕食にふたたびむかう。
 わたしの疑問は、わずかなおかずの夕食なのに、
 しかも「食べ終えかけて」いたにもかかわらず、
 再開してからさらに
 「ブリの粕漬けを食べ、味噌汁を飲み、米飯を食べ」るのは
 ずいぶん時間がかかるじゃないか、
 というイチャモンみたいなものだ。
 よほど一品がおおもりなのか、
 ひとくち100回以上よくかんでいるのか。
 まるで夕食のスタートから
 まりえがみまもっているみたいな描写は
 おおげさではないだろうか。
・氷をいれないのが一般的なシングルモルトを、
 オンザロックでのむのはなぜか。(第二部P137)

ついこまかなところが気になったけど、
すばらしい作品であり、たのしい時間をすごせた。

posted by カルピス at 21:05 | Comment(0) | 村上春樹 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする