ののちゃんの住んでる所行きたいな…
という句がのっていた。
いしいひさいちさんがかいている「ののちゃん」は、
時事問題をあつかわない。
現実の社会で、どれだけコロナがさわがれていても、
ののちゃんたちは いつもの日常を生きている。
東日本大地震のときも、ちょくせつ地震や
放射能による混乱は話題にならなかった。
しばらくたってから、震災と関係がありそうだと、
ふかよみしてようやくわかるはなしがのったけど、
ストレートに時事問題をださないのが
いしいひさいちさんの流儀だ。
新聞やテレビが、新型コロナのことばかりをいうなかで、
「ののちゃん」がすんでいる町は、
これまでとおなじ日常生活がつづいている。
ひとごみのなかをかいものにでかけるし、
もちろんマスクなんかしてない。
テレビや新聞にあふれている「コロナ」にはうんざりで、
わたしだって、「ののちゃんの住んでる所行きたい」とおもう。
そんな「ののちゃん」なのに、きょうのはなしには、
「時節柄」ということばがでていた。
ののちゃんが「なんか冷たいものないー?」
とおばあさんにたずねると、
おばあさんが「保冷剤。」とこたえている。
時節柄 冷蔵庫の掃除中や。
時節柄って、なんのことだ。
コロナで家にいる時間がながくなり、
断捨離をするひとがおおいというから、
おばあさんも、家のかたづけをしているのかとおもった。
ふつうにかんがえると、そうなる。
でも、ののちゃんのおばあさんは、
コロナだろうが、コロナでなかろうが、
いつも家にいるひとだから、
コロナと関係してのそうじではない可能性がある。
おばあさんのいう「時節柄」とは、
なにをさしているのだろう。
ついに「ののちゃん」が時事問題にふみこんだ、と
「時節柄」発言を重大にとらえたけど、
いしいひさいちさんの真意はべつなところにあるかもしれない。
おばあさんに保冷剤をだされたののちゃんは、
そのあとかいものからかえってきたお母さんにも
「なんか冷たいもの 買ってない?」
とふたたびたずねている。
お母さんのこたえも おばあさんとおなじ「保冷剤。」
あ母さんは、豆腐とバターをかってきたので、
保冷剤をもってかいものにいったのだろうか。
でも、ふつう保冷剤をもってかいものにいったりしない。
かいものからかえったお母さんは、
なんだかさえない表情で「ただいま。」
といっている。
そして、つまらなそうな顔のまま
ののちゃんに保冷剤をさしだしている。
このはなしのわからなさは、
お母さんのさえない表情が鍵をにぎっているのではないか。
なぜお母さんは保冷剤をもってかいものにいったのだろう。
お母さんは、バターや豆腐をかいたかったけど、
おばあさんが冷蔵庫のそうじをしているので、
わざわざ保冷剤をもってかいものにでなければならなかった。
よけいな荷物をもってのかいものだったので、
お母さんはうかない顔つきでかえってきた。
でも、それではやっぱりおかしい。
あのお母さんが、めんどくささを我慢して、
保冷剤もちでかいものにいくわけがない。
はじめから保冷剤などもたずにでかけるか、
保冷剤がいらないかいものをするはずだ。
ののちゃんはお母さんに
「なんか冷たいもの 買ってない?」
とたずねている。
「買ってない?」にたいしてのこたえが
「保冷剤」なのだから、
お母さんは保冷剤をかったのだ。
なぜ保冷剤なんかをかったのか。
それは、豆腐とバターをいい状態にたもつため、
ととらえるのがふつうだけど、
でも、保冷剤は、お店でかっても、
すでにつめたいわけではない。
すでにつめたい保冷剤は、スーパーでは手にはいらない。
はいるとしたら、ケーキなどのおかしをかったときだ。
ここで、わたしが到達した最終的な解釈は、
お母さんは、みんなにだまってケーキをかい、
それに保冷剤がついていた。
うれしそうな顔で家にかえったら、
みんなにケーキのことがばれてしまうので、
あえてしけた表情をつくり、「ただいま」と
ののちゃんのまえにあらわれた。
お母さんはじっと保冷剤をみつめながら
ののちゃんに保冷剤をさしだしている。
なぜ自分が保冷剤をもっているかを
ののちゃんにさとられるわけにはいかない。
しらをきるために、お母さんはポーカーフェイスでおしとおした。
まだちょっとむりがある。
・時節柄の冷蔵庫掃除
・保冷剤
・お母さんのさえない表情
わからない。
きょうの「ののちゃん」は難解だ。